第3講 : サイトの仕掛け(2)と効果測定
◆3-1. コミュニティについて
サイト全体の中では「コミュニティ」というグループを設けておりますが、どういうものをコミュニティと呼ぶのかという問題があります。私たちの会社とか製品に関して「好きだ」という人たちをある程度集めていって、その中でいろんな情報が流れるということをコミュニティというならば、ホンダのホームページそのものがコミュニティサイトと言えます。ですから全てのものがホンダの中ではコミュニティと定義することもできるでしょう。
普通、コミュニティというと「掲示板」とか「お客さんとのツーウェイのやり取り」が重視されていますが、実は私たちはそういうのはあまり重視していないのです。それをやることの見返りのところは非常に費用対効果が悪いと踏んでいまして、全体の中の10分の一程度の力で顧客へのサービス、ファンサービスとしてコミュニティをやっているつもりなのです。
全体としてはお客さんのニーズの高いところを中心にやっています。お客さんのニーズとしては、一番は「製品情報」です。2位は「売っている場所教えてください」、3が「カタログ下さい」、4番目くらいに「モータースポーツの情報欲しい」と。この調査は6年近くずっとやっていますが、お客さんのニーズというか優先順位は全く変わらないですね。お客さんのコミュニティのニーズはあまりないのが事実です。
当社のホームページで最も古いコミュニティは「S800」のパーツリストのページ(http://www.honda.co.jp/memory/mem-s8/)でしょう。これはコミュニティとは誰も思えないでしょうが、売らなくなって久しい、部品も作らなくなったような商品のパーツリストを載せることは概念からいうと実はコミュニティなのです。売りには何もつながらないのですけれども、顧客のマインド、ロイヤリティに関しては大変効果があると思います。そのパーツリストを出して1時間くらいしてお客さんから電話がかかってきまして、「全部見た」とおっしゃっていました。全部で400ページくらいあるものです。まだホームページを立ち上げた日ですから、誰も知らないわけです、アドレスも含めて。でも、その内容を全部見て、昔S800を持っていたというホンダファンの方は大変うれしかったということでした。その方は、「ついては言いたいことがある」と言い、「一ページ間違っている」「それはタイヤのページが2ページあった」とおっしゃられたのです。そういうありがたいお客さんというのが、私たちのファンのコアなところでして、この人たちに対するサービスというのがコミュニティというふうに私たちは定義しております。そうではないという定義もあるでしょう。
ですから何を持ってコミュニティというかはいろんな考え方があるのでしょうけれども、私たちがコミュニティというときには"ピュアな製品系"ではないところ、"今の商売にはあまりつながらないところ"を指してコミュニティと呼んでいます。
◆3-2. コミュニティの評価
いわゆるコミュニティは「費用対効果」があまり良くないと思います。掲示板は論外で禁止しているのです。パソコン通信の時からずっと見ているわけです。そういったものの効果について、色んな話を聞いていると結局、最後は"井戸端会議"です。それから何か新しい、素晴らしいものが生まれて、すごくいい製品が生まれることは、ないわけではないが、極めて稀有と思うのです。むしろ"火消し"に大変だったという方のほうが圧倒的に多数なので、それを維持し、お客さんを喜ばして、ポジティブに持っていく努力を考えると、「まぁやらない方がよいのかな」と考え、禁止しているのです。
ただお客さんの側から見ると、自分の書き込んだものをそのまま見せるようなことはできるので、それはやっています。しかし今の商売にはつながらないのです。多分十年後の商売につながるということで、それはそれとして無視はしないでやっているのですけれども。今の商売を考えると、とりあえず関係ないのかなと思います。
投稿いただいているわけですから、そういったものを私たちは常時見ているわけです。それだけでも結構大変なのです。例えば、投稿されたものをリアルでは上げないのです。お客さんの車の写真とか送ってもらうじゃないですか、あれ結構気を遣っているのです。
詳しく見ていただくと分かりますが、ナンバープレートとか全部消してあるのです。「プライバシー」という概念はお客さん自身にはないのです。ただ、やがてそういうものが問題になると思います。お客さんが自由に投稿するものでは、当社のサイトの中ではありませんが、車のサイトとかで、「ここまで改造している車を出してよいのか」と別のお客さんに言われるようなものとか、お客さん自身はいいと思っているけれども、自分の車のナンバーが出ていることがあります。でも、その人はその直後に売ってしまうかもしれないとか、いろんなことが考えられる。あるいは奥さんが嫌かもしれない、あるいは娘はそのナンバーをこっそりと銀行の暗証番号にしているかもしれないのです。はっきりと分からないけれども気を遣わなくてはいけない要素がたくさんあります。駐車禁止のところに停めて写真を撮るとか、そういう時は「駐車禁止」マークを一生懸命消すのです。お客さん自身は気がついていなくてもやらなくてはならない。そこが自動車メーカーとしては結構気を遣うところです。
メール登録なんかでも「私はこんなものを頼んでいない」というのが結構たくさんあるのです。ですからカタログ請求が来て、送ったらこんなもの頼んだ覚えはないとか、言われた例など、たくさんあるのです。Webの世界だけではないのですけれども、気を遣わなくてはならないところはたくさんあります。その辺の延長線上ずっと見ていきますと、いわゆるリアルタイムの掲示板は実りが少ないとみています。
◆3-3. 顧客ニーズの把握の仕方
お客さんのニーズ、お客さんに直接聞けばよいということで、当社では常時、アンケートというものをやっています。フッダーのところに「Feedback」というのがあるのですが、これは常時のアンケートページで、昔からあります。そのアンケートをもとに、お客さんがどんなことを考えているのかを定量的に捉えようとしています。もう一つはアクセスログで、純然たる何が多いのかということで判断していくというものです。この二つは極めて相関は高いので、まずまず大丈夫だろうと考えています。
アクセスが多いのは、文句なく商品系ページです。また、お客さんが何について知りたいのという点でトップは、同じく商品についてです。この商品系については中でさらにブレークダウンされていますから、それごとに詳しく見ていくと、アクセスログと比べられるのですけれど、大きくいえば相関関係が見られるということなのです。
ログデータは毎日何百メガという単位で発生します。私たちは全てのログは極力捨てることにしています。実際に見ているものはURLのアドレスと、それに対するページビューというかアクセス数だけです。大昔当社が始めたときは、ヒットを見ている人と、全ての画像の点数を数える方、今でもありますけれども「リファラー」といってどこから来て、どこへ行くのかという移動を見ている方、滞在時間に注目している人など、様々いたわけです。ただ、長い目で見ていきますと滞在時間なんかはテレビと同じで、常時接続になってしまうと意味がなくなってしまうと思います。そんなものは端から捨てようということで、URLとそのアクセス量しか見ていないです。あとは全部捨てているのです。そうしないと、とてもではないけれどもエンジンが回らないです。
月単位で分析ソフトを回すと、多いものだと回り切りません。3時間くらいかかっても答えが帰ってこないこともあります。ですから基本的には、できるだけ少なくしようと。そのようなことですから、これ以外にプラスアルファをしょうとすると、ちょっときついという感じです。実は今ログのエンジンを積み替えて新しいものにしています。今度のものは、もうちょっとプラスアルファを持っています。
ログも人によって見ているものは違います。集計の単位については、カテゴリーごとに出るものもあって、社内のバーチャルスタッフはみんな見ているのですけれども、自分の部門のところの領域でのアクセスだけでなく、他部門のアクセス状況も結構気にしているようですね。
◆3-4. サイト立ち上げ後にお客様相談室に寄せられるものの変化
お客さんから来るメールは二つの分かれておりまして、普通の電話でくるような内容の問い合わせは、「お客様相談室」が答えてくれています。これはリアルと同じです。Webに特化しているようなこと、例えば「ページにバグがありますよ」とか、「リンクが切れています」とか、そういうことは私たちが対応しています。
お客様相談室に寄せられる声は、サイト立ち上げ後も、全く変わってないです。個々の細目に関して言えば、わずかに減っているものもあります。「ディラー・ロケーター」と呼ばれる、販売店を案内する仕組みについて言えば、96年度には電話での年間での問い合わせは7000件くらいあったのです。去年が5000件くらいだったと思うのです。その対極にサイト内のディラー・ロケーターのアクセスはどんどん伸びておりまして、去年だと47万件、アクセス数だと180万件あります。桁が違うのですけれども、リアルな電話での問い合わせは2000人くらい減っているわけです。
カタログ請求も電話での問い合わせは月に1000件くらいあったのですが、今は半分くらいです。Webでのカタログ請求を96年7月から始めていますので、そこからは電話でん問い合わせがポコンと下がっています。でも、500件くらいは毎月コンスタントにあるのです。ですからよく社内に言っているのはWebだから、全てのものが片付くのではない、もともとニーズがあるものの一部を置き換えているに過ぎないのです。電話でかかってくるもののニーズは捉えた表面の一部ですから、もともと10倍くらいあるではないでしょうか。それがWebに置き換わるのだと。ですから、もともと来ているものは良くて半分くらいに減るのだけれども、どんなにがんばっても電話でかけてくる人というのは必ず残るだろうと、これは全然変わらないです、何年たっても。それが真実なのです。
今Webで処理しているお客さんの件数はアクセス数で見ている限りでは、電話の100倍前後くらいなのです。その数字は今まで隠れていたニーズが顕在化しているだけだと思うのです。お客様相談室が楽になったかというと、私たちはそうは思っていないのです。
お客様相談室にかかってくる年間の問い合わせ件数は減っているかといえば、むしろ増えているのです。もしWebができていなければ全部電話できていたのかもしれません。そうしたら電話がパンクするでしょう。今まではずっと件数は安定していたのですが、これは混んでいてつながらないことで安定していたのかもしれません。測っている尺度はお客さんへの満足ということではないのです。
昔、ホームページを始める前、お客様相談室に行って「電話の問い合わせで最も多い件数とは何ですか」と聞きました。私達のサイトは、実はその多い順を参考に作っているのです。ですから、お客さんのニーズはもともと潜在であるので、たくさん見るに決まっているのです。その順番というのが、電話の件数の比率が同じなのです。ただ、めちゃめちゃ数が多い100倍とかいう人数が来るだけです。それで販売台数が5年前の10倍になっているかといえばそのようなことはないのです。ですから、Webに置き換えて効率が上がるといっても、何を持って効率が上がるのかという点では、せまいバンドでの効率はあがっているけれども、会社全体、あるいは販売店を巻き込んだ効率の上では何も変化はないということを、私たちは言いたいのです。
それでもWebをする理由は、やらないとお客さんに嫌われてしまうからです。世の中の"常識"というものがあって、世の中でWebが常識となってきて、Webでサービスをするのは当たり前になってきていると思います。24時間365日情報を出すのは当たり前で、これは今までは販売店や電話センターではできなかったことで、これをやらない会社はこれから生き延びられないのです。
◆3-5. 対インナーの意識に対する効果
スポーツカー系に関しては、実は開発者がお客さんと一緒に語る場所というのがあるのです。ですが、「お客さんのところに社員を連れ出す」という効果を期待しているわけです。もともと、顔の見える車が欲しいというニーズがあるのです。「作った人の顔が見える車が欲しい」という、これはネットだけではなくて、リアルな世界でもずっとある話で、スポーツカーに関して言えば、顔が見えるようにしてきたつもりなのです。「NSX」と「S2000」と「インテグラ」というタイプがあります。この三つともお客さんを集めて、それぞれコンセプトミーティングとかドライビングフォーラムとか、オーナーズミーティングを行っています。名前は違うのですが、中味は一緒で、スポーツカーですので、お客さんに安全なドライビングを教えるという場です。ここ10年くらいそのようなことをしているのですが、そのときは必ず、開発のコンセプトを作った開発の責任者が最初に来て必ず説明をしているのです。そして実際にドライビングをしているお客さんが待っているときに開発者と色々と話をするのです。これが商品開発に効いておりまして、商品のマイナーチェンジとか新しい商品を作るときまで、開発者に対してかなり良いインスピレーションを与えているのです。これをリアルの世界だけではなく、ネットの世界でやったらどうかというのがことの始まりです。ネット上ならば開発者も恥ずかしくないので、出てくるのではないかということで「ワイガヤ研究室」(http://www.honda.co.jp/WAIGAYA/)が生まれたのです。どんどんお客さんの生の声が入ってくるので、もしかすると10年後くらいには良い商品の開発なんかできるのではないかと思うのです。お客さんの声で何か分かるというよりも、"周波数みたいなところが刷り込まれる"のではないかなというところを期待しています。結果が出ることはまだまだ先ですね。
お客さんのところに社員を出すことには、リスクもあるのです。開発者をお客さんの前に出すときには事前事後の念入りな打ち合わせがいるのです。
スポーツカー系のものは最初、全部アドバイザーが横についていて、お客さんと会うときには、事後に「あの時はああいったがこうした方が良かった」など、毎回調整しているのです。それで段々とレベルアップしてもらっているのです。ぽこっとお客さんの前に出すことはないのです。難しいのは、この辺のバランスですね。ですから「ワイガヤ」はこの辺の折衷案あるいは妥協案といっても良いでしょう。1年半くらいしか経っていない試みです。
◆3-6. ユーザビリティの考え方
「ユーザビリティ」というのは、最近流行ってきているのですが、基本はお客さんの視点に立って、どういうふうに扱いやすいのか、という点に尽きると思います。ですからナビゲーションの問題だと思っているのです。私たちはナビゲーションをどうしたらよいのかということを常に考えていて、一、二年に一回ナビゲーションを全部代えてきました。今のものはその前のバージョンと随分と違います。最初はロジカルに考えて、「プロダクト」というグループがあって、その下に「2輪」「4輪」「汎用」という商品群があったのですが、一階層多くなり、実際にアクセスを見ると、プロダクトを見る人はほとんどいなくて、いきなり飛んできてしまうのです。ですから「必要ない」と、アクセスログを見ながら、削っていったり、新しいグルーピングを作ったりしています。
優秀なユーザビリティの会社にも最近では入ってやってもらっていますが、基本は使う人たちの気持ちになって、当社の人間ができるだけよく考えてやればそれでよいのかなあと思っています。確かにお客さんの立場に立つというのは難しいものです。お客さんは色んな目的で来るものですから、10人とかやっても完璧にOKという話ではありません。ある人は景品だけを求めて来るわけだし、ある人は発表したIRのデータだけを見たいと思い、別の人は商品のカタログだけを欲しいと思っているし、ある商品の全部を見たいと思っているかもしれない。その人たち全てを満たすことはできないのです。だから、多そうなところに、なるべく押しやすい、見つかりやすい構造体を作っておきます。メニューが並んでいますが、これは偶然ではなくて、その配置もほぼアクセス順になっていると考えていただいても構わないのです。ですからしょっちゅう変わるのです。
サイト構造も毎年一回くらいリニューアルするのです。それでも、できるだけ変らないように作っているのです。ほとんど見た感じは変わらないですけれども、実は比較してみますと全然別のものなのです。例えば、昨年までは「コミュニティ」というグループがないわけですが、今のものにはあります。時代性があるので、顧客ニーズがあれば、そのように変えるようになっているのです。
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講師:渡辺春樹氏(本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長)
※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
◎初出:2002年9月24日
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