11-専門家レクチャー

2007/07/05

専門家レクチャー コーナー <目次>

Vol.5.「サイト戦略再考 ~企業イメージを演出するための基本コンセプトとその展開(1)」~(5)

本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長 渡辺春樹氏による講座。 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
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 ◎初出:2002年9月9日
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Vol.3.「ここまで進んでいる!テキストマイニング活用最前線(1)」 ~(5)

株式会社 資生堂研究開発本部CS開発センター情報開発室 林俊克氏による講座。 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
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 ◎初出:2002年5月14日
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Vol.1. 「マーケティングパラダイムの革新とデータマイニング(1)」 ~(4)

立教大学社会学部 守口 剛 教授(2007年7月現在「早稲田大学商学部 教授」)による講座。
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 ◎初出:2001年11月19日
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*専門家レクチャー コーナーの連載は完結いたしました。

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2007/07/02

Vol.5.『サイト戦略再考 ~企業イメージを演出するための基本コンセプトとその展開』(5)

第4講 : 現状の評価と今後の展開・課題

◆4-1. 現時点でのサイトの評価

サイトの評価について、いずれにしても満足するということは永遠にないと思います。

一番の悩みは更新頻度が多いので、全てのバグをつぶしきれないということです。お客さんは親切に教えてくれるのですけれども、できればゼロであることが望ましいでしょう。ただ、そのバグといっても範囲は広くて、一つのページを作って公開する時にかなりの知識が必要です。色んなディビジョンが経験をつんだ人間とその制作会社を使った形である程度はやっているのですけれども、そうは言ってもやはりダメというのはあるのです。それをHondaという立場から見て最終的な判断を下す能力を持っている人はそれほど多くないでしょう。

しかも、今は良いのだけれども「将来はダメ」というのも見ていかなくてはならないのです。当社のサイトはクッキー禁止にしているのですけれども、何ゆえクッキー禁止なのか理解できない人も多いです。そういうのがある程度新しいサイトが立ち上がったときに、ダメだよと止めなくてはならないわけです。こういうのが結構大変なのです、今、説得できないケースもあるからです。ですから一部のサブのサイトでクッキーを使っているということがあるのです。メインはやりませんが。そういう実際の運用の仕方の中で、今は良いけど将来はやめるべきだと、ですから「今からやるべきではない」というのがあるのです。法律的に決まってないこともあるじゃないですか。それに対して先にこうゆう風な対応でやろうと、私たちの方で思っていても、各部門が全部を守ってくるわけではないのです。その辺をどのようにやっていったらよいのかを苦労しています。基本は自由ですから天動説を信じる部門があってもいいのかもしれませんが。

◆4-2. 常時接続・ブロードバンド時代のコンテンツ

「ブロードバンド」というのが正しいのかどうかは分かりませんが、もうじき立ち上るもので、例えば、ネットだけのプロモーションビデオとかCMとか、そういったものは出てきます。ただお客さんが望むかどうかは分からないので、やってみて望まなければ、それをやめてしまうこともあります。

ネットでCMするのは大変なのです。音楽著作権から、タレントまで、簡単にクリアできない要素が多くて。今は「モビリオ」など一部の商品だけでやっているのですけれども、実は全部やりたいのです。ですから、これから作るCMはみんな全部それを乗り越えるか、あるいはネット専用に変えてしまうかという方法で進めています。ネットしかないフルCGのプロモーションビデオを今作っていますし。そういうのも見たいというのならいいのですけれども。そういうのが受けるのかどうかは分からないです。それからそういうのがまた売りに直結するとも思えません。まあコミュニティの延長線上といえるでしょう。

◆4-3. 今後充実させていきたい点

今後充実させていきたいのは「商品系」のページです。なぜならば、お客さんのニーズがやはり一番高いからです。現在の商品系のページはまあしいて言えばカタログの焼き直しのレベルに過ぎないので、もっとWebならではのコンテンツが入っても良いのではないかと思うのです。従来の二次元のものよりより詳しい情報もここに置きたいのですが、お金がかかることも事実です。

3Dは、一部のところではやっていますが、難しいのは3Dをやっても見る人が増えるわけではないことです。それは検証済みのことで、費用対効果を説明できないです。そこにはお客さんの満足度しか残らないのです。私たちとしては顧客の満足度を重視していますから、そこを増やしたいとは思っているのですが。昔は3Dをほとんど全機種持っていたのです。でも、お金がかかるのでだんだんなくなっていきました。コンバージョンレートを見ていくと、カタログ請求する人と、3Dを見る人は数が一緒なのですよ。どの機種でも一緒だということは、大体10人に一人なのです。10人に一人カタログ請求して、10人に一人3Dを見る、これは同じ人だと思われます。3Dはなくてもカタログ請求するので、コンバージョンレートはとれるので、一緒なのです。ですから販売貢献の総数は変化しないのです。3Dに関しては、お客さんからの満足度は結構高くて、アンケートを見ていると「良かった」とか、「何でこの機種には置いてくれなかったのだ」とか結構言われておりました。そういうニーズは知っているので、ブロードバンドを契機にちゃんとやろうよということは今言い始めているのです。

◆4-4. 今後のことを考える上での課題

Webと呼ばれるもの、携帯電話とか新しい情報端末は進化していますし、10年くらいたてばWebもテレビにつながるわけですから、そういったものが出てきたときのライフスタイルの変化というものは完全には予測できません。全て未来が明るいとは思っていないのです。そのときのライフスタイルの変化を先取りして、ちょっと早めに作っておいて、お客さんの気持ちをつかんでおかないといけないかなと思います。

例えば、ゲームではネットで対戦ゲームとかありますが、でもそれは現状としてまだあまり流行っていないわけです。ただ10年後にはメジャー化している可能性も高いわけです。95年くらいにソフトウェアのバグをネットからダウンロードするということはあまりなかったと思うのです。今では普通にあり、なければおかしいと言われていますが、時代が早すぎてもいけないと思うのです。5年後の話を今されたとしても、お客さんは困ってしまいます。しかし5年後にそれができないとばかにされてしまうことは十分にありえます。ですから「何時行うのか」という、Webをやる人はその辺のバランスがものすごく大事だと思います。

費用対効果の視点、投資して何を実現するのかということも要です。95年の時点ではWebでネット中継していても、コンテンツ側のサーバー、回線速度などの問題で、ほとんどの方が見られなかったはずなのです。やはり時代というものの中で、自分のところも投資し、お客さんにも投資してもらって、いいものをやっていくしかない。その辺のバランスですよね。

当社はかって一度もネット中継をしたことはありません。ストリーミングは出たものを検証できないので、難しいのです。今、株主総会をネットで中継したいという声もありますが、やめろといっています。動画で、オンタイムで流してしまったものは修正がきかないからです。

それに「中継をやるのは結構ですけど、それを見る人は少ないですよ」と言っています。200人くらいではないかなと思います。そうするとあまり意味がないのです。

ただ一方で、お客さんがネットでCMを見たいという声は非常に強いのですが、課題は著作権とか、タレントとかがクリアできないことです。とりあえず「音をとってしまえ」とか、「代わりの曲を当てておけ」とか、そういう手段もあるのですが、トータルでのブランドマネージメントに合わなくなるのでつらいのです。この領域に関しては日本はまだまだ大変です。

リアルな世界でも、過去の宣伝に関しては権利問題がなかなかクリアできていません。ニーズはものすごくあります。しかしクリアすべきエネルギーがものすごく大変で、実は3年くらいも交渉しているのですが、過去のものから現在のものも含めて、いまだにクリアできずに大変です。ストリーミングで流すにしても保存できず、他では流せないような方法にしないといけませんし、それでも著作権をクリアできないことが多くあります。

特に過去のものは難しいのです。過去の曲を作ったグループが解散していると致命的なのです。前も「ゴダイゴ」の曲を使っていたことがあって、交渉していて最終的には「OK」になったのですけれども、解散しているので見つからない人というのもいるわけです。最終的にリーダーの人が「自分が最終責任をとるので流してよい」といってくれたのだけれども、なかなか難しいです。下手すると年単位でかかる交渉になります。最近ではネットで流すことを念頭に置いたCM制作を行っているのですが、いいものを作ろうとすると著作権をクリアしなくてはならないものも多くありまして、その辺が悩みです。金額がクリアに、例えば「日本国内だけならよい」というように条件が明確に妥当に決まってくれば、喜んで払っても良いと思っているのです。

今年は"ブロードバンド元年"と言われていますので、CMのネット利用が流行ってくるのではないでしょうか。権利の問題は一部決まったところもありますが、始めると色々と問題が生じてきます。現在は、Web広告研究会とインターネット協議会と合同で、JASRAC等を入れて作業をする部会を立ち上げいろいろクリアすべき問題に取り組んでいます。(終)

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 講師:渡辺春樹氏(本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年9月30日
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Vol.5.『サイト戦略再考 ~企業イメージを演出するための基本コンセプトとその展開』(4)

第3講 : サイトの仕掛け(2)と効果測定

◆3-1. コミュニティについて

サイト全体の中では「コミュニティ」というグループを設けておりますが、どういうものをコミュニティと呼ぶのかという問題があります。私たちの会社とか製品に関して「好きだ」という人たちをある程度集めていって、その中でいろんな情報が流れるということをコミュニティというならば、ホンダのホームページそのものがコミュニティサイトと言えます。ですから全てのものがホンダの中ではコミュニティと定義することもできるでしょう。

普通、コミュニティというと「掲示板」とか「お客さんとのツーウェイのやり取り」が重視されていますが、実は私たちはそういうのはあまり重視していないのです。それをやることの見返りのところは非常に費用対効果が悪いと踏んでいまして、全体の中の10分の一程度の力で顧客へのサービス、ファンサービスとしてコミュニティをやっているつもりなのです。

全体としてはお客さんのニーズの高いところを中心にやっています。お客さんのニーズとしては、一番は「製品情報」です。2位は「売っている場所教えてください」、3が「カタログ下さい」、4番目くらいに「モータースポーツの情報欲しい」と。この調査は6年近くずっとやっていますが、お客さんのニーズというか優先順位は全く変わらないですね。お客さんのコミュニティのニーズはあまりないのが事実です。

当社のホームページで最も古いコミュニティは「S800」のパーツリストのページ(http://www.honda.co.jp/memory/mem-s8/)でしょう。これはコミュニティとは誰も思えないでしょうが、売らなくなって久しい、部品も作らなくなったような商品のパーツリストを載せることは概念からいうと実はコミュニティなのです。売りには何もつながらないのですけれども、顧客のマインド、ロイヤリティに関しては大変効果があると思います。そのパーツリストを出して1時間くらいしてお客さんから電話がかかってきまして、「全部見た」とおっしゃっていました。全部で400ページくらいあるものです。まだホームページを立ち上げた日ですから、誰も知らないわけです、アドレスも含めて。でも、その内容を全部見て、昔S800を持っていたというホンダファンの方は大変うれしかったということでした。その方は、「ついては言いたいことがある」と言い、「一ページ間違っている」「それはタイヤのページが2ページあった」とおっしゃられたのです。そういうありがたいお客さんというのが、私たちのファンのコアなところでして、この人たちに対するサービスというのがコミュニティというふうに私たちは定義しております。そうではないという定義もあるでしょう。

ですから何を持ってコミュニティというかはいろんな考え方があるのでしょうけれども、私たちがコミュニティというときには"ピュアな製品系"ではないところ、"今の商売にはあまりつながらないところ"を指してコミュニティと呼んでいます。

◆3-2. コミュニティの評価

いわゆるコミュニティは「費用対効果」があまり良くないと思います。掲示板は論外で禁止しているのです。パソコン通信の時からずっと見ているわけです。そういったものの効果について、色んな話を聞いていると結局、最後は"井戸端会議"です。それから何か新しい、素晴らしいものが生まれて、すごくいい製品が生まれることは、ないわけではないが、極めて稀有と思うのです。むしろ"火消し"に大変だったという方のほうが圧倒的に多数なので、それを維持し、お客さんを喜ばして、ポジティブに持っていく努力を考えると、「まぁやらない方がよいのかな」と考え、禁止しているのです。

ただお客さんの側から見ると、自分の書き込んだものをそのまま見せるようなことはできるので、それはやっています。しかし今の商売にはつながらないのです。多分十年後の商売につながるということで、それはそれとして無視はしないでやっているのですけれども。今の商売を考えると、とりあえず関係ないのかなと思います。

投稿いただいているわけですから、そういったものを私たちは常時見ているわけです。それだけでも結構大変なのです。例えば、投稿されたものをリアルでは上げないのです。お客さんの車の写真とか送ってもらうじゃないですか、あれ結構気を遣っているのです。

詳しく見ていただくと分かりますが、ナンバープレートとか全部消してあるのです。「プライバシー」という概念はお客さん自身にはないのです。ただ、やがてそういうものが問題になると思います。お客さんが自由に投稿するものでは、当社のサイトの中ではありませんが、車のサイトとかで、「ここまで改造している車を出してよいのか」と別のお客さんに言われるようなものとか、お客さん自身はいいと思っているけれども、自分の車のナンバーが出ていることがあります。でも、その人はその直後に売ってしまうかもしれないとか、いろんなことが考えられる。あるいは奥さんが嫌かもしれない、あるいは娘はそのナンバーをこっそりと銀行の暗証番号にしているかもしれないのです。はっきりと分からないけれども気を遣わなくてはいけない要素がたくさんあります。駐車禁止のところに停めて写真を撮るとか、そういう時は「駐車禁止」マークを一生懸命消すのです。お客さん自身は気がついていなくてもやらなくてはならない。そこが自動車メーカーとしては結構気を遣うところです。

メール登録なんかでも「私はこんなものを頼んでいない」というのが結構たくさんあるのです。ですからカタログ請求が来て、送ったらこんなもの頼んだ覚えはないとか、言われた例など、たくさんあるのです。Webの世界だけではないのですけれども、気を遣わなくてはならないところはたくさんあります。その辺の延長線上ずっと見ていきますと、いわゆるリアルタイムの掲示板は実りが少ないとみています。

◆3-3. 顧客ニーズの把握の仕方

お客さんのニーズ、お客さんに直接聞けばよいということで、当社では常時、アンケートというものをやっています。フッダーのところに「Feedback」というのがあるのですが、これは常時のアンケートページで、昔からあります。そのアンケートをもとに、お客さんがどんなことを考えているのかを定量的に捉えようとしています。もう一つはアクセスログで、純然たる何が多いのかということで判断していくというものです。この二つは極めて相関は高いので、まずまず大丈夫だろうと考えています。

アクセスが多いのは、文句なく商品系ページです。また、お客さんが何について知りたいのという点でトップは、同じく商品についてです。この商品系については中でさらにブレークダウンされていますから、それごとに詳しく見ていくと、アクセスログと比べられるのですけれど、大きくいえば相関関係が見られるということなのです。

ログデータは毎日何百メガという単位で発生します。私たちは全てのログは極力捨てることにしています。実際に見ているものはURLのアドレスと、それに対するページビューというかアクセス数だけです。大昔当社が始めたときは、ヒットを見ている人と、全ての画像の点数を数える方、今でもありますけれども「リファラー」といってどこから来て、どこへ行くのかという移動を見ている方、滞在時間に注目している人など、様々いたわけです。ただ、長い目で見ていきますと滞在時間なんかはテレビと同じで、常時接続になってしまうと意味がなくなってしまうと思います。そんなものは端から捨てようということで、URLとそのアクセス量しか見ていないです。あとは全部捨てているのです。そうしないと、とてもではないけれどもエンジンが回らないです。

月単位で分析ソフトを回すと、多いものだと回り切りません。3時間くらいかかっても答えが帰ってこないこともあります。ですから基本的には、できるだけ少なくしようと。そのようなことですから、これ以外にプラスアルファをしょうとすると、ちょっときついという感じです。実は今ログのエンジンを積み替えて新しいものにしています。今度のものは、もうちょっとプラスアルファを持っています。

ログも人によって見ているものは違います。集計の単位については、カテゴリーごとに出るものもあって、社内のバーチャルスタッフはみんな見ているのですけれども、自分の部門のところの領域でのアクセスだけでなく、他部門のアクセス状況も結構気にしているようですね。

◆3-4. サイト立ち上げ後にお客様相談室に寄せられるものの変化

お客さんから来るメールは二つの分かれておりまして、普通の電話でくるような内容の問い合わせは、「お客様相談室」が答えてくれています。これはリアルと同じです。Webに特化しているようなこと、例えば「ページにバグがありますよ」とか、「リンクが切れています」とか、そういうことは私たちが対応しています。

お客様相談室に寄せられる声は、サイト立ち上げ後も、全く変わってないです。個々の細目に関して言えば、わずかに減っているものもあります。「ディラー・ロケーター」と呼ばれる、販売店を案内する仕組みについて言えば、96年度には電話での年間での問い合わせは7000件くらいあったのです。去年が5000件くらいだったと思うのです。その対極にサイト内のディラー・ロケーターのアクセスはどんどん伸びておりまして、去年だと47万件、アクセス数だと180万件あります。桁が違うのですけれども、リアルな電話での問い合わせは2000人くらい減っているわけです。

カタログ請求も電話での問い合わせは月に1000件くらいあったのですが、今は半分くらいです。Webでのカタログ請求を96年7月から始めていますので、そこからは電話でん問い合わせがポコンと下がっています。でも、500件くらいは毎月コンスタントにあるのです。ですからよく社内に言っているのはWebだから、全てのものが片付くのではない、もともとニーズがあるものの一部を置き換えているに過ぎないのです。電話でかかってくるもののニーズは捉えた表面の一部ですから、もともと10倍くらいあるではないでしょうか。それがWebに置き換わるのだと。ですから、もともと来ているものは良くて半分くらいに減るのだけれども、どんなにがんばっても電話でかけてくる人というのは必ず残るだろうと、これは全然変わらないです、何年たっても。それが真実なのです。

今Webで処理しているお客さんの件数はアクセス数で見ている限りでは、電話の100倍前後くらいなのです。その数字は今まで隠れていたニーズが顕在化しているだけだと思うのです。お客様相談室が楽になったかというと、私たちはそうは思っていないのです。

お客様相談室にかかってくる年間の問い合わせ件数は減っているかといえば、むしろ増えているのです。もしWebができていなければ全部電話できていたのかもしれません。そうしたら電話がパンクするでしょう。今まではずっと件数は安定していたのですが、これは混んでいてつながらないことで安定していたのかもしれません。測っている尺度はお客さんへの満足ということではないのです。

昔、ホームページを始める前、お客様相談室に行って「電話の問い合わせで最も多い件数とは何ですか」と聞きました。私達のサイトは、実はその多い順を参考に作っているのです。ですから、お客さんのニーズはもともと潜在であるので、たくさん見るに決まっているのです。その順番というのが、電話の件数の比率が同じなのです。ただ、めちゃめちゃ数が多い100倍とかいう人数が来るだけです。それで販売台数が5年前の10倍になっているかといえばそのようなことはないのです。ですから、Webに置き換えて効率が上がるといっても、何を持って効率が上がるのかという点では、せまいバンドでの効率はあがっているけれども、会社全体、あるいは販売店を巻き込んだ効率の上では何も変化はないということを、私たちは言いたいのです。

それでもWebをする理由は、やらないとお客さんに嫌われてしまうからです。世の中の"常識"というものがあって、世の中でWebが常識となってきて、Webでサービスをするのは当たり前になってきていると思います。24時間365日情報を出すのは当たり前で、これは今までは販売店や電話センターではできなかったことで、これをやらない会社はこれから生き延びられないのです。

◆3-5. 対インナーの意識に対する効果

スポーツカー系に関しては、実は開発者がお客さんと一緒に語る場所というのがあるのです。ですが、「お客さんのところに社員を連れ出す」という効果を期待しているわけです。もともと、顔の見える車が欲しいというニーズがあるのです。「作った人の顔が見える車が欲しい」という、これはネットだけではなくて、リアルな世界でもずっとある話で、スポーツカーに関して言えば、顔が見えるようにしてきたつもりなのです。「NSX」と「S2000」と「インテグラ」というタイプがあります。この三つともお客さんを集めて、それぞれコンセプトミーティングとかドライビングフォーラムとか、オーナーズミーティングを行っています。名前は違うのですが、中味は一緒で、スポーツカーですので、お客さんに安全なドライビングを教えるという場です。ここ10年くらいそのようなことをしているのですが、そのときは必ず、開発のコンセプトを作った開発の責任者が最初に来て必ず説明をしているのです。そして実際にドライビングをしているお客さんが待っているときに開発者と色々と話をするのです。これが商品開発に効いておりまして、商品のマイナーチェンジとか新しい商品を作るときまで、開発者に対してかなり良いインスピレーションを与えているのです。これをリアルの世界だけではなく、ネットの世界でやったらどうかというのがことの始まりです。ネット上ならば開発者も恥ずかしくないので、出てくるのではないかということで「ワイガヤ研究室」(http://www.honda.co.jp/WAIGAYA/)が生まれたのです。どんどんお客さんの生の声が入ってくるので、もしかすると10年後くらいには良い商品の開発なんかできるのではないかと思うのです。お客さんの声で何か分かるというよりも、"周波数みたいなところが刷り込まれる"のではないかなというところを期待しています。結果が出ることはまだまだ先ですね。

お客さんのところに社員を出すことには、リスクもあるのです。開発者をお客さんの前に出すときには事前事後の念入りな打ち合わせがいるのです。

スポーツカー系のものは最初、全部アドバイザーが横についていて、お客さんと会うときには、事後に「あの時はああいったがこうした方が良かった」など、毎回調整しているのです。それで段々とレベルアップしてもらっているのです。ぽこっとお客さんの前に出すことはないのです。難しいのは、この辺のバランスですね。ですから「ワイガヤ」はこの辺の折衷案あるいは妥協案といっても良いでしょう。1年半くらいしか経っていない試みです。

◆3-6. ユーザビリティの考え方

「ユーザビリティ」というのは、最近流行ってきているのですが、基本はお客さんの視点に立って、どういうふうに扱いやすいのか、という点に尽きると思います。ですからナビゲーションの問題だと思っているのです。私たちはナビゲーションをどうしたらよいのかということを常に考えていて、一、二年に一回ナビゲーションを全部代えてきました。今のものはその前のバージョンと随分と違います。最初はロジカルに考えて、「プロダクト」というグループがあって、その下に「2輪」「4輪」「汎用」という商品群があったのですが、一階層多くなり、実際にアクセスを見ると、プロダクトを見る人はほとんどいなくて、いきなり飛んできてしまうのです。ですから「必要ない」と、アクセスログを見ながら、削っていったり、新しいグルーピングを作ったりしています。

優秀なユーザビリティの会社にも最近では入ってやってもらっていますが、基本は使う人たちの気持ちになって、当社の人間ができるだけよく考えてやればそれでよいのかなあと思っています。確かにお客さんの立場に立つというのは難しいものです。お客さんは色んな目的で来るものですから、10人とかやっても完璧にOKという話ではありません。ある人は景品だけを求めて来るわけだし、ある人は発表したIRのデータだけを見たいと思い、別の人は商品のカタログだけを欲しいと思っているし、ある商品の全部を見たいと思っているかもしれない。その人たち全てを満たすことはできないのです。だから、多そうなところに、なるべく押しやすい、見つかりやすい構造体を作っておきます。メニューが並んでいますが、これは偶然ではなくて、その配置もほぼアクセス順になっていると考えていただいても構わないのです。ですからしょっちゅう変わるのです。

サイト構造も毎年一回くらいリニューアルするのです。それでも、できるだけ変らないように作っているのです。ほとんど見た感じは変わらないですけれども、実は比較してみますと全然別のものなのです。例えば、昨年までは「コミュニティ」というグループがないわけですが、今のものにはあります。時代性があるので、顧客ニーズがあれば、そのように変えるようになっているのです。

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 講師:渡辺春樹氏(本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年9月24日
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Vol.5.『サイト戦略再考 ~企業イメージを演出するための基本コンセプトとその展開』(3)

第2講 : サイト運営の体制とその仕掛け(1)

◆2-1. トップページの見え方で大事にしている点

トップページからのデザインコンセプトについて、商売っ気をなくすというよりも、当社サイトに来ていただいた方にわたしたちが何を大事にしているのかを分かるようにしておこうと考えています。ですから例えば、メーカーですから、現実の商売でも、過去の商売でもいいのですけれども、商品を大事にしているというのは強いのです。よくデザイン化して環境みたいなページとか、ハイテク化みたいなページにしてしまうこともあるのです。でも、そうではなくて、私たちは、2輪、4輪、汎用という3つの事業部がありまして、これが大事であるということをトップページで確認してもらいたいのです。

それも今売っている人に出しても構わないのですが、今まで買ってもらったお客さんがファンになって来て下さっているので、そのような人たちがみても、あなたたちのことも忘れていないよということを言ってあげたいのです。それは今来ていて、過去にはつながりがなかった人には見えないものです。つながりがある人にとっては、はっきりとわかるものです。それを、今のトップページのコンセプトの中で処理できればいいのではないかと思い、今までずっと続いています。

◆2-2. どういう人をターゲットに考えているのか

市場のシェアナンバーワンの大きな会社は大勢のお客さんが来るので、当社みたいに集中ができないはずです。当社は小さいので、お客さんの幅が狭くて、その人たちの顔を見ながら作っていけばよいのです。いまだにシェアは15%くらいですから、「ニッチャー」(編集部註;ある市場においては最大の占有率を持っているものを「リーダー」、という。リーダーとは異なった戦略で、市場の隙間[niche]という特定の位置での圧倒的なポジション、利潤を狙うものを「ニッチャー」という)であることには変わりにないのです。ですから、トップページもあわせたコンセプトでは、私たちはニッチャーであるということに基づいています。

社外の方では、ニッチャーだと思っていない人も、当社がニッチャーらしくない行動にでると、「どうした、ホンダらしくない」と言うのです。80年代後半から90年代からセダンのフルラインアップを伸ばしていたわけですけれども、お客さんに何といわれたかといえば、「らしくない」「やめろ」「ライバルのまねをするな」ということをばんばんと言われていました。普通「チャレンジャー」(編集部註;対リーダー戦略によってはリーダーの位置を奪取できるかもしれない位置にあるもの)の道を選ぶことは、トップメーカーのコピーをして、それよりも早くて安く商品を出すということですから、「それはホンダらしくない」「クリエイティブでやれ」と言われるのですね。ですからお客さんもちょっと突っ込んでやると、一皮向けばホンダはニッチャーだとみんな思っているのです。

◆2-3. 社内的な制作体制

社内的には、現在は販売部の中に住んでいます。ホームページを担当する事務局みたいなものが私たちなのですけれども、広報部からスタートしています。ホームページということで、企業としての情報発信ですから、宣伝と広報というのはマストでやらなければいけない領域になっておりまして、その当時私自身は宣伝部に席をおいており、最初からかかわることになっていたのです。その後、社内的に様々な経緯を経て、組織そのものは広報部の中に置かれていました。

昨年あたりから、これからは実際の販売につながるところにかなりウェイトをおいて、具体的にはマーケティング領域をやっていこうということになりました。そして、それを営業がやらないわけではないですが、やはり、私たちが中に入ってやった方が早いということで、今は販売部門に引越ししてやっています。

時代がちょうど「広報領域」から「マーケティング領域」に移っていっていますから、時代とともに引っ越していくというように考えています。どこがやるということが固定されているわけではないです。

私たちの部署では7名で運営しています。Webマスターの仕事は結構きついので、一週間もメインでやるとヘトヘトになってしまいます。そこでチームを二つに分けて、1週間交代で回しています。とても負荷の多い仕事ですが、だんだんとレベルの高いWebマスターと呼べるような人を育てていって、増やしていきたいと思います。それでも10人以上には増やしたくないです。あまり人数を増やしてしまうとまとまりがなくなってしまいますから。大体コアの人間が3、4人いればまわると踏んでいます。

実際にホームページを作っている主要メンバーはバーチャルスタッフと呼んでいます。人事発令しているレベルで言いますと、去年の4月で40名です。96年は25名でしたから、大分増えたのです。バーチャルスタッフの仕事は、もともとその部門が本来やるべきことというふうに定義していますから、時代が変わってネットでの発信とかをしなくてはならなくなってきて、その業務としてやってもらっているということです。バーチャルスタッフは全て兼任のメンバーです。

95年末に今度こういうことをやりたいので、バーチャルスタッフになってくれいないということを当時20人くらいの人を集めて、お願いしました。その後、ネット上での付き合いが中心です。完全なバーチャルの世界です。もちろん個別のバーチャルスタッフと私たちとの接触はしょっちゅうあるのですが、みんなで集まっての全体会議なんかは時間の無駄ですから、一度もしたことはありません。

最近だと1日当たりの更新が50回を越えています。その体制については、基本的にはバーチャルの世界ですから、校正するためのサーバーがあり、これが本サーバーと"双子"になっています。「そこで出来たよ」という連絡をもらいまして、「OKだよ」ということを出して、そのまま私たちがボタンを押せば、それが世の中で見られるようになります。「だめだよ」と、私たちが戻せば直してからまた、もう一回見てということを繰り返すのです。二つのサーバーは全く双子でして、時間軸が違うだけのことです。

◆2-4. 運用のマニュアル

私たちがデザインの中でうるさく言っているのは、ただ一つ、「企業のCIだけはできるだけ守っていただきたい」ということです。はじめたところは実はCIのルールはなかったのです。私たちからこういうふうにした方が良いというのを出しておりまして、それが、去年の初めくらいですが、「ブランド室」というものができて、そこがCIをきちっと決めてくれました。実は私たちがいったとおりになっているものが多いのですが、お客さんが見ている分にはほとんど変わっていないのです。

上にあるヘッダーと、フッダーのナビゲーション、それからCI、これだけは守ってくださいよと、あとは好き勝手にやっていただいています。実際に見ていただければ分かるのですが、デザインの統一なんかはないですよ、上から下まで。それぞれの作っている人、実際は部とか、課の中に担当ごとにみな分かれていて、それぞれごとにみな考えていることが違うし、ついている会社もみな違うので、全然違うものができています。

むろん、Webページを作るにあたっては厚い「クリエイティブガイド」が存在しています。制作作業はこれを見て必ずすることになっておりまして、その中に「自由闊達」「自己責任」というコンセプトを図表化した物が入れてあります。CIというところでは、バック地はこの色はダメだとか、また周りからこれくらい離さなくてはいけないよとか、CIマニュアルもそっくり含んでいます。

ホームページの作り方も、「アドレスはこのようにして欲しい」とか、「ツークリックで目標に達しないとダメ」とかそういうものが入っています。そういう決まりごとが書いてあるものです。

マニュアルというのは所詮机上の空論ですから、実際にその運用がある中で、形になって上がってきたときに、その心根がマニュアルの精神にあっているのかどうかを見るのが私たちです。その心根が合っていれば多少ずれていても、まあ良いではないかという運用の仕方はあると思います。

継続性といえば、多分一つだけです。"今の商売をかんがえてやるか"、"未来の商売を見据えてやるのかどうか"くらいです。私は少し先を見たやり方を考えているので、このような仕方をしているのですが、そうではないやり方もあります。大部分の企業がそうではない仕方を選んでいるので、当社は他社がそのようにするならば、そうはしなくても良いのではないかと言いやすいのです。他社がみんな当社のようにしてきたときは考え直さなくてはなりませんが。

◆2-5. 新車発売とWebとの連動

商品のティザーという新車が出る前の展開では、大体Webサイトは連動しています。どこの会社でも連動しておりますが。今「ホビーカー」というキャンペーンをしています。大体その一ヵ月後になると、新車で出てくるのです。

Webの効果として様々なレベルがありますが、「何もしない時」がコンバージョンレート(編集部註;サイトの訪問者(アクセス)数と、その最終的な成約の比率)が最も高いのです。誘引に最も効果が高いのはWebのバナーです。

テレビとか新聞とかはほとんど影響がありません。テレビとか新聞はURLをわざわざ覚えて打たなくてはいけないじゃないですか、ですから面倒くさいのです。新聞もURLを打ち込んだ15段広告を入れてもあまりアクセスは増えません。テレビもURLを大きく映して、わかりやすい名前にしていれば多少の効果があるのかもと思いますが、実際には大変少ない効果です。

私たちは「メディアミックス」と呼んでいますが、メディアミックスというほどの効果を得られていないのが現状ではないでしょうか。何か当たるとなると全然変わりますが、そうするとコンバージョンレートはがくんと下がるので、あまりお奨めできないやり方です。プロモーション担当者が「多く集まってよかったです」と報告するためにやるもので、会社全体としての費用対効果はあまり良くありません。

◆2-6. クッキーの禁止

フレームとクッキーは最初から禁止しています。フレームに関してはログをとるときに、邪魔になるのです。一部にフレームを使ったところもありますが、基本的には禁止ということになっています。フレームはログのクリア性が確保できないのです。

クッキーはプライバシーがメジャーな話題になったときに、クッキーを使っている会社というのがかなり疑念を抱かれる可能性が高いと踏んでいまして、「やめよう」と言っているのです。クッキーを使わなくても、実際には実現できるというのがほとんどでして、当社はお客さんに対してIDパスワード方式でやろうと思っていることはないのです。つまり囲い込みはやらないつもりです。"自ら囲い込まれたい人"はしょうがないと思っています。それもできるだけ"柵"は作らないで、自由に出入りして下さいと、その方がコンバージョンレートは高いと踏んでいるのです。動物に喩えては何ですが、囲いを作らない方が牛さんものびのびとしているのです。

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 講師:渡辺春樹氏(本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年9月17日
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Vol.5.『サイト戦略再考 ~企業イメージを演出するための基本コンセプトとその展開』(2)

第1講 : ホンダサイトの基本コンセプト

◆1-1. サイトの基本的な戦略として最も重視していること

「戦略」だと思っていないことが多いので、それを戦略とみるかどうかは皆さんのご判断だと思うのです。多分、私たちが「コンセプト」と呼んでいるところがそうだと思います。

基本的な考え方、コンセプトと呼んでいるものは、大きく分けて三つくらいあります。その中で一番重要なものは、"統合型のサイトを作らない"という考え方です。色々なディビジョンとか会社が、会社の中にグループとして存在していますので、個々のそれぞれの部門とか会社が、好き勝手にオペレーションとしてやったら良いのではないかと思っています。一言でいうと「自由闊達にやって下さいよ」と。ただし、「責任を取るのはあなたのところ」という、「自由闊達」イコール「自己責任」というのが基本的なコンセプトとしてあります。

実体化するために、基本的に各部門が好き勝手にやっても良いのですけれども、完全に好き勝手にすると、やはりお客さんのナビゲーションというところでお客さんに迷惑がかかりますので、基本的にお客さんが探しやすくするためのナビゲーションでは、私たちが一応考えてやりましょうと。それから左のディビジョンと右のディビジョンとで言っていることが違う場合はバランスが悪いので直しましょうとか、そういうところは私たちがやりますけれども、基本は好き勝手でやったらよいのではないかと考えております。

喩えると、わたしたちのサイトは"アジアのにぎやかな市場"を目指しています。一つ一つのお店が一杯中にあり、道もどうなっているのか良く分からない、ですからナビゲーションが必要なわけですが、そういう中で一杯あっても一つ一つのお店がみな違う魅力を持って、全体として眺めたときに、なんとなく賑やかで活気、活力があるところが、会社の大切なあるべき姿ではないかと思うのです。

そしてもう一つの考え方というのは、トップダウンできれいに上から下までデザインもきちんと決めてやっていくやり方があります。これをやっていくと、例で言えば、"ヨーロッパのきれいな古い町並み"みたいなものです。それは確かに昔栄えたのかもしれません。しかし今は観光客しかいない。そういう静かで、きれいで、いいかもしれないけど、活力がないというところと、私たちとしてはどちらを選ぶのかというところで、活力があるものを選ぶしかないのです。ですから、BMWさんのサイトとかを見ても、上から下まできれいにデザインが通っています(編集部註;ドイツBMWホームページ http://www.bmw.de/)。それが未来永劫耐えていけるかもしれないし、そうでないかもしれないし、それは会社の違いがあるのでなんとも言えないのですが、私たちのような新興企業の会社のあり方としては、"より活力のある、よりダイナミックな方向"を狙うということです。個々のセルが自由に動いて、トータルの大きな形としてナビゲーションみたいなものは持つのですけれども、基本は自由にやるというのがコンセプトとしては一番重要なポイントと考えています。

◆1-2. サイトの基本的な戦略として重視している点(2)

コンセプトのあと二つはサブだと思うのですが、それを実体化するためにはどうしたらよいのかというところで、「エンジン」は何を持つのかということです。色んなディビジョンに"バーチャルスタッフ"を配置して、そこの人たちが自分の仕事としてやっていくということで、そこをネットワークとして包んでいきます。また、その人たちの下に色んな制作会社がぶら下がっています。この制作会社の人たちでも、ホームページを立ち上げた1996年の時点では文明化進度も高くなくて、メールだとかFTPはほとんど経験がなかったのです。その当時FTPを自由に扱える会社というのは、ほんの数えるくらいしかありませんでした。要するに、その当時はお互い同じ言語でしゃべる時代ではなかったのです。それをインターネット・WebとFTPによる納品、メールという連絡手段、これを全部結ぶことによって、一つの巨大なコミュニケーションを生成するエンジンとして、情報量がそこにまとまってできました。これはWebとメールがなくてはできなかったと思うのです。その結果として今では1日に何十回というように更新するようになっていますけど、当時は本当に頻度が少なくて、1週間に一度くらいしかしなかったこともあります。

それが自分の会社だけではなくて、よその会社も含めたネットワークによってエンジンが生成されて、そのところはみんな好き勝手にやっていますけど、Webですから上からルックダウンできるのです。ですから、ほんの数人のハンドリングする人がいれば、それだけ巨大な情報を連携して扱うことができるというのは、"Web革命"による、私たちが考えたエンジンとしては一番きれいな形です。これがなければ、とっても当社のホームページなんかは実現できないと思います。ですから、そういうエンジンを使ってやろうというのが二つ目の考え方です。そのときポイントだったのが、社内だけではなくて、社外の取引先も一緒に進化させようということだと思っています。

三つ目は、何かをやったらやっぱり「効果」をとらなくてはダメだよということです。ちゃんとログをとって「費用対効果」をしっかりと見た上で、実際にどっか悪いところがあれば、ログだけではないのですけれども、実際にはアンケートも参考にして、悪いところはどんどんと直して、新しいものに変えていくということに尽きると思います。"止まっている"ということができない世界です。ですから常に、前に向かって走っていくしかない、これを"自転車操業"といっていますが、基本的にはいつも前に向かって走っていって、常に改善していくということを永遠に続ける。それを私たちもするし、個々のセルも全部やっていくということです。

◆1-3. ホームページで表現しようとしていること

ホンダの中にも、1000万円を超える「NSX」から、軽自動車、2輪車、発電機まであります。全てが同じものの上には成り立っているわけではないので、同じものだというふうにおっしゃるときは大体自分の目の範囲内でしか、ものを言っていないと思うのです。ですから非常に多様なものが同時に存在していて、"なんとなく一つの雰囲気を出している"のが会社の香りだと思うのです。会社が生きてきた生き様というのがあり、それは世の中に出ている情報が反映して出てきておりますから、私たちが思っている以上に外の人たちの方が私たちのことを良く知っていると思っています。

私たちがしているのは、外の人が当社の中を見た時に見るであろう"ホンダの本来の姿"を作っているだけです。ですから自分がというよりは、外の人たちの鏡として作っているのです。

◆1-4. これまでのサイト展開でのコンセプトの変更

ポリシーというか、私たちが呼んでいるコンセプトは変わっておりません。考え方としては"民主主義"でいくのか、"全体主義(独裁政権)"でいくのか、二つしか選択肢はないと思います。そうした場合、「民主主義で行ったほうのが、長いこと生存できそうだ」と感じていますし、基本的な考え方は「自由闊達」「自己責任」に尽きるので、そういうことでそれでやりましょうと思っております。ですから基本的な構造は全く変わっていないです。

ただ事実をいえば、Webからやっているので、全ての情報は我々の"ボタン"の下にいるわけで、実は今は完全な"中央集権"なんです。今のところ、私たちが全ての情報をハンドリングしているということには誰も気づいていないのが幸いです。

◆1-5. サイトの目的とこれまでの成果

ホームページの目的は四つです。一つは人を集める、集客です。二つ目は、その中の商品に関心を集めることで、メーカーですから売ることへの貢献、つまり販売促進ということです。三つ目は比較的近いお客さん、あるいは買ってくれたお客さんに長期的なリレーションをとって、「ライフタイムバリュー」を上げること、すなわちCRMの領域です。四つ目として最終的には企業全体のブランドに貢献できること。それを目指そうというのが私たちのイメージです。

この4つのステージに関しては、実体化するという意味では、段々後ろにずれつつあるといいますか、時間軸でもあるのです。最初は情報を伝えるためにメディアとしてしか使っていませんで、販売促進としてはやや弱かったと思います。それが販売促進の比率が少しずつ上がってきて、今ではダイレクトコミュニケーションのCRMの領域に食い込んできていまして、当然ブランディングも少し入ってきております。時間が経つにつれて、後ろの方の領域の比重が高まってきています。最終的には4つが均等に分布するのかもしれません。

にぎやかな市場を作るという集客の観点で、アクセスビューを眺めると、右肩に順調にずっと上がっています。その形は変わりません。もともと、当社のサイトは"キャンペーン型"ではないので、でこぼこはあまりないのです。ですから、自然と集まってきているものを受け止めているだけで、打って出ていないので、比較的きれいなカーブを描いています。98年くらいは新車のキャンペーンをかなりやっていましたが、今は一通り検証が終わっているので、効果がありそうにないところはやらないという方向にあります。そんな派手なことはやっていないので、サイトへは検索エンジンなどからくる場合が多いのです。また全体の4割くらいは製品系へのアクセスではないでしょうか。

◆1-6. 企業のブランドマネージメントとの整合性

現状では「ブランドマネージメント」という意識はあまりないのですが、今後、会社の中でブランドの概念はますます重要になると思います。

Webは「企業の鏡」なのですが、鏡の中に出てくるものが、みんな自由闊達、自己責任でにやるという気風があるので助かります。それは組織だけではなくて個人もみなそうなのです。わたしも自分がやりたいことをしているだけですが、今のところ、上から文句を言われないのは、まあまあそれなりにやっているからだと思います。

難しいところは誰かがいなくなると、崩れてしまうかもしれないことなのです。その人が作った形にしかならないのです。人が変わると、全く新しいものが生まれることがあり、それが良い時もあるのです。車が生まれるときもそうです。他方、「継続性」ということが大変苦手な会社なので、それはリスクとして存在します。

◆1-7. 他サイトで参考にしたもの

他のサイトで面白いものについては、すぐには思い出せません。昔は随分とよそのサイトを見ていたのですが、今は毎日50回変わる自分のサイトを見るだけで精一杯、というのが本音です。

他サイトを見ていて一番感じることはコンセプトの違いですね。ソニーさんとかアップルさんとか、大変すばらしいところは沢山あります。でも多くの企業がトップページに今、売りたい商品やサービスを一番に持ってきますよね。それは目先の商売しか見ていないということを自らお客さんに言っているようで、それは良くないのではないかと考えるのが、私たちの立場です。これまで企業を育ててくれた、そしてこれからやってくるお客様、現在過去未来のすべてのお客様へのメッセージがあるのが企業のサイトだと思います。当社は多くの企業のそれと対極にありますので、あまり比べてこうというのはあまりないのかなと。個々のサイトの中には、素晴らしく、尊敬できるコンテンツは一杯あると思います。

初期の頃に、他のサイトを見て参考になったのは、全体の構成体ではなくて、一個一個の機能なのです。お客さんのニーズの高い販売店を検索するというのは、当時では普通に考えると住所のリストを出すということだったのですれども、アメリカのサイトなんかを見ると、全部とは言わないまでもほとんどとはZIPコードを入れると、そこを中心した地図が出てきて、その上に販売店をプロットして出てくるという仕組みができていました。これを見て、当社が作ったのがディーラーロケーターという仕組みです。この仕組みを使った方は昨年47万人もいました。そういうニーズがあることをよりうまく、よりよく見せられるというのがITのおかげだと思います。

デザイン面では、1995年、立ち上げ前に色々とサイトを見ていて、具体的にどこのサイトというよりも、どのサイトもわりとデザイン志向が強くて、黒バックで、使いにくい、可読性が低いと思いました。確かにハイテクのイメージは出せるのですけれども、可読性が低いなど、悪い例として参考にしたものがすごく多くあります。ですから、当社は白ベースでいこうと決めたのです。どちらかといえば、反面教師にすることが多いのです。

あともう一つは、当社みたいに色々なところがくっついてやるところもたくさんあって、きちんと上から全部出す方が、デザインがきれいに決まっていて良いのですけれども、1年くらいで、飽きそうだと思うのです。同じデザインですから。表紙は企業の顔として、1年に一度くらいしかチェンジしなくても、様々な魅力のある色々な顔を次から次へと作ってゆく、ダイナミックな構造体を作り上げた方が良いのではないかと判断したのです。

最近、やっていることとしては、車関係なんかでは、マツダさんは随分とがんばっているなあと思っています。

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 講師:渡辺春樹氏(本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年9月9日
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Vol.5.『サイト戦略再考 ~企業イメージを演出するための基本コンセプトとその展開』(1)

講師:渡辺春樹氏(本田技研工業株式会社 四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長)

渡辺 春樹(わたなべ・はるき)
【個人プロフィール】
本田技研工業株式会社 四輪営業統括部 販売部ホームページ企画課課長。
1950年静岡生まれ。1974年同志社大学大学院心理学修士、1977年同博士後期課程修了、同年本田技研工業株式会社に入社。海外向けの宣伝とCIを担当後、1990年より販売促進部で国内の商品宣伝やモーターショー等を担当。1996年より広報部でNC(ネットワーク・コミュニケーション) プロジェクトのプロジェクト・リーダー。ウエッブマスターとして、ホンダのホームページを運営。社団法人日本広告主協会Web広告研究会の広告調査委員会委員長。

【渡辺氏の推薦書籍】
『ハーバード・ビジネス・レビュー』ダイヤモンド社

【関連URL】

本田技研工業株式会社ホームページ
http://www.honda.co.jp/

Web広告研究会ホームページ
http://www.wab.ne.jp/

◆フロントストーリー

企業の情報発信ツールとして、各企業が自社のサイト構築に本格的に取り組み始めてから、7年以上が経ちました。そろそろ振り返って、冷静な検証を受ける時期に来ているのではないでしょうか。

企業の顔としてのホームページの機能は全体として確実に進化を遂げているようですが、中には企業像を多面的・複眼的に映し出すところまで進化しておらず、"会社パンフレットやカタログをそのままコンテンツアップしただけ"と揶揄されるようなものも見受けられます。

今回はホームページ立ち上げの時期が大手企業の中ではやや遅かったものの、その個性豊かな表現や内容で、着実に企業の顔作りに成果を上げている本田技研工業株式会社のホームページ責任者の渡辺さんにご登場いただき、その仕組みについてじっくりレクチャーをいただきます。

第1講 : ホンダサイトの基本コンセプト
第2講 : サイト運営の体制とその仕掛け(1)
第3講 : サイトの仕掛け(2)と効果測定
第4講 : 現状の評価と今後の展開・課題

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 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年9月9日
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Vol.3.『ここまで進んでいる!テキストマイニング活用最前線』(5)

■第4講 : フリーアンサー解析の進化に続く

4-1.非定型自由文を解析できるDIONISOS-

当社独自の手法であるDIONISOS(ディオニソス)についてお話します。「バッカス」と「ディオニソス」という酒の神様の二大巨頭のうちの一人にあやかった名前で、これも登録商標を取得させていただいております。

DIONISOSは、まったくの否定形自由文で書かれたお客さまの声をテキストマイニングすることで要約して把握することができます(図6)。内部では、お客さまの非定型自由文テキストを前処理ののち分かち書きして形態素解析しています。

普通のテキストマイニングでは、分かち書きをしたものを言葉の発言度数とか、同時発言の相関性を分析して、コレスポンデンス分析に持っていくとか、その程度のことしか出来ないわけですけれども、資生堂としてはVACASという考え方のツールを持っていますので、分かち書きされた部品がどういう論理関係でつながっているかがわかれば、ロジックの分析もできるわけです。分かち書きされた部品が現状のことを言っているのか、はたまた希望とか理想を述べているのかがわかれば、価値ポートフォリオで分析することで、価値の所在ということが分析できるわけです。これも特許をださせて頂いているのですけれども。

ワインの例でご説明します。まず「ワインのレベルのよしあしはどのようなところで判断されますか」とか「ワインの味のよしあしとか、どのようなところで判断されますか」という質問を、フリーアンサー形式のアンケートで聞きます。

回答としては「原産国と甘さから」「さらっとしている」「渋くなく甘みがあるもの」「コクがあるかないか」など、様々なことを書いてくれます。これを150名分とりました。そして形態素に分解していくわけです。それで形態素に分解して文法情報から構文解析を行い、関係性を解釈して、このようにタプル生成というところまでを行います。そうすると、例えばこれは、「よくわからないが、おしゃれなデザインで決める」は、よく、わからない、おしゃれなデザインで決める、という構文解釈ができているわけですね。

構文解析の結果から「構文木」といわれるものを作るのですが、いわゆる分かち書きの、このデータから構文を分析するわけですね。どの言葉がどの言葉にかかっているのかをみられるわけです。これもあまり難しい技術ではなくて、言語解析の分野では普通にやられている方法を基本的には採用しています。

この係り受けの情報を使うと、このようにフリーアンサーの情報が解析できるわけです。そうすると、「自分の好みに合うものがよい」「口当たりがよい」「渋みがないものがよい」「価格が高いものがよい」「料理に合うものがよい」とか、VACASを応用して分析できるわけです。

4-2.DIONISOSでできることのパフォーマンス-

今まで一度に一番多くのものをやったのは、6万8千件くらいのものでして、さすがに高機能なCPUを載せたパソコンでやったのですが、3時間くらいかかりました。でも3時間で完結するということですけれども。

もちろん、先ほどのワインの良し悪しの例のように、普通のマーケティングリサーチで行われるようなフリーワードのアンケートの要約も簡単です。

私が執筆した論文をテキストマイニングすることもできまして、「お客さまの言葉をカテゴリ化する」や「潜在ニーズ適合性を探る」や「感性工学的手法を応用した調査システム」「特定のコンセプトを訴求したり、理解するときの論理展開を推測できる」とかが分析されて要約として出てきていました。自分が書いた文章のエッセンスはまあまあ出てきていますので実用に耐えるのかなと。

以上の説明でなんとなく使い物になっているとわかっていただけると思います。

4-3.(まとめ)現時点でのテキストマイニングの評価、課題-

一番大事なのは、物理品質と知覚品質といいますか、いわゆるスペックの評価と感性評価の両方を考える必要があるということです。そこのところが両立しないといけないのです。VACASやDIONISOSのような感性工学的な手法からのアウトプットが目新たらしくて面白いということで、こちらばかりをやっていてはダメで、今までのような物理特性、顕在的な価値をきっちりと把握した上で、今回提案させていただいているようなテキストマイニングから得られるような、お客さま言葉から来る知覚品質も十分配慮し、両方が満たされるような商品を作ることがメーカーとしての勤めですよ、と言いたいですね。

そのためにも、VACAS、DIONISOSもまだまだ色々と改良していかなくてはいけないと考えているわけです。問題点はいくつかあるのですが、定型自由文形式アンケートの完成は急務です。今の聞き方は「定義してください」とか、「~ので~から~」という文章を完成してくださいというものですが、聞かれる側に大きな負担を強いてしまうようです。特に文章完成法については、若い人は平気で書くのですけれども、55歳を境にしてそれ以上の方はほとんど筆が進まないのです。それを補う方法として、インタビュワーがついて、例えば「ワインについてどう思っていますか」といって、「毎晩飲んでいます」、「ではなぜ毎晩飲むのですか?」「毎晩飲むとどういいのですか?」といったいわゆるラダリングインタビューをするのですね。要は文章完成法の( )の中をインタビュワーが埋めていくという操作で何とか補っているわけですが、それをするとコストも時間もかかり、VACASの強みがかなりスポイルされてしまいますので、アンケートでもっと簡単に、VACASの解析に耐えうるようなテキストデータが取れないかという方法論を考えなくてはいけないということが一つの課題です。

また、DIONISOSみたいな全く非定型の自由回答テキストに関しては、先ほどの構文解析の精度が即解析の精度に影響するわけです。分かち書きをして、なおかつ分かち書きをしたパーツパーツが文法的にどういう部品なのかということが正確に分析できる賢い形態素解析エンジンが求められています。

 数理統計的な課題もあります。「原因」と「結果」という形でクロスサポート行列を作ってそれ解析することで、ロジック分析ができるわけですが、グラフ理論ではいわゆる非対称の正方行列で扱える方法論としては「ISM」と「デマテル」くらいしか数学的な方法論がないのです。これは統計学者の人にがんばっていただいて、ISMやデマテル以外に非対称の正方行列からロジックを分析できるような方法論を開発していただきたいと思いますね。

さらに、色々な人から、特にVACASもDIONISOSを批判的にみる人から言われるのですが「検定」の問題があります。VACASにもDIONISOSにも検定という概念は今のところありません。「このロジックはどれくらい信用できるの?」「だってそういう人の数が多いのだもの」と、それしか説明ができていなくて、これにどのような方法で検定の概念を持ち込むのかも大きな課題です。これも数理統計的な課題と思っています。ただし、実用上はこの検定の問題は、それほど問題ではないと思うのですけれども。

調査に必要なn数に関しては、さほど大規模な調査をしなくても特に問題ないと思います。例えば200名と50名くらいの調査の結果を比べてみても結果はほとんど同じですね。でも、サンプルは多ければ多いほどよいと思います。多くのユニークな感性ワードが取れますから。

VACASに限らず、サンプルのリクルートを伴う調査は一般に非常にお金がかかりますので、1500サンプルといった数は非現実的な数字になります。1調査あたり100とか200サンプル程度くらいが順当なのではないかと思いますし、それで十分な情報が得られます。

もちろん、費用と解析に時間がかかるだけですので、データ数に関しては何件あっても全くかまいません。

4-4.テキストマイニングを活かすために求められるスキル-

これはあらゆる調査に当てはまることですが、「誰に聞くのか」、「どう聞くのか」はすべての調査の基本です。解析の方は結局、今騒がれているテキストマイニングもデータマイニングも、扱う対象が定量的に数値化されたものを扱うのか、テキストのようなまだ定量化されていないものを扱うのかということの違いだけで全く同じ手法でできてしまいます。そしてテキストマイニングも、DIONISOSのように、分かち書きをして係り受けを分析しそれらの情報を計量できる数値に変換してやればデータマイニングの手法がそのまま使えるわけです。テキストマイニングに関しては、まだ「黎明期」であり、DIONISOSも自分の頭の中にあることだけを具現化しているわけですから定量的な数値化もまだまだ稚拙であると言わざるを得ませんが。

どのような方法論であれ、解析に関しては、プロフェッショナルでなくてもできます。DIONISOSにしても、データさえ与えれば解析は全てオートマティックですから。何ワードまで出せとか、矢印を100本以内で書けと指示するだけです。問題は、出てきた結果をどう解釈するのかということや、解析する以前のデータのクオリティがどれほど高いものかということなのです。

DIONISOSに関しては、本邦初公開でして価格設定はもちろん、市販するかどうかも今のところ未定です。一般ユーザーの方に広く使っていただけるような状況を作りたいなとは思っているのですけれども、現段階ではVACASと同様に調査サービスとして提供し、フリーワードのデータコンテンツを頂いたらそれを分析してお返しするというサービスを考えております。(終)

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 講師:林俊克氏(株式会社資生堂 研究開発本部 CS開発センター情報開発室)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年6月3日
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Vol.3.『ここまで進んでいる!テキストマイニング活用最前線』(4)

■第3講 : 活用事例②「文章完成法」

3-1.価値の認識構造を把握するための文章完成法-

もう一つの方法として「文章完成法」というものがあります。今までのものは定義法といって言葉や短い文章で簡単に物事を定義してもらうテキストマイニングの手法でした。で、今度は文章完成してもらうアンケートのテキストマイニングです。

最近非常に価値の認識構造を把握しましょうという?ロジックを探る方法?が盛んに行われていまして、早稲田大学の豊田先生が本をいっぱい書かれていますが、因子分析みたいなところから持ってくる「共分散構造分析」のようなものもいっぱいやられているようです。やはり価値認識のロジックの把握、つまり原因を探ることが出来るということが非常に重要だと考えられているのです。それを把握するために簡易なテキストマイニングという意味で、私どもはこのような文章を完成してもらうアンケートを実施しているのです(図3)。

「ワインは~なので、~だから、~である」を書いてもらいます。例えば「ワインはポリフェノールが入っているから体に良いのでたくさん飲める」とか、「ワインは高いのでめったに飲めないので悲しい」とかですね、そういうことが書いていただけます。

このようなことを聞くと何がわかるのかといえば、「ポリフェノールが入っていると体によい」とか、「体によいからいっぱい飲める」というロジックがあり、一つの文章を作ってもらうことだけで、お客さまの感性ワードが三つと、ロジックが二つ取れるということなのです。ですから、とても効率よくたくさんの情報が取れるわけです。

このアンケートをしてもらうと、論理関係を分析することができます。それを「デマテル」という方法論を使って分析させていただいております。デマテルが一番ロジック解析に適しているのかどうかについては、テキストマイニングの今後の課題の部分で触れようと思っているのですが、現代段階では一番よい結果を出してきます。

デマテルはどういうことができるかというと「種類が豊富だと楽しいです」とかいうふうに直接的にお客さんが言った場合がこれくらいあるとします。そうすると、別のお客さんが「種類が豊富だと選べるのだ」と、また別のお客さまは「選べると楽しいのだ」と言ったとします。そうすると、このような間接的なパスがあると、「種類が豊富であると楽しい」は、この関係性は本当はもっと太いと考えられます、間接影響があるから。他にも間接影響があるとどんどん太くなって、潜在的な影響関係の太さはものすごく強くなるということです(図4)。こういうことの潜在的な影響の強さを調べる計算手法としてデマテルは優れていると思います。

3-2.潜在的なロジック構造の図式化-

このデマテルを使って、デマテルは数式をとくだけですから、エクセルでも解けてしまう。逆行列を算出できれば、すぐにできてしまいますから簡単な方法です。井上先生が書かれた本の中にエクセルのマクロが収載されているものがありますので参考になさったらいいと思いますが、クロス集計表を作ってデマテルで解けば、このようなワインはどのような価値認識がされているのかが出てきます。たとえば、「ポリフェノールが入っているから体によくてうれしい」ということが強くて、「口当たりがよくてうれしい」のかと思うと、「口当たりがよくて二日酔いになるや困る」といった、逆に困ってしまうというわけです。それから「種類が豊富だと、選べるから楽しい」とか、「飲みやすいと飲みすぎて困る」「飲みやすいとたくさん飲める」とか、「アルコールが高めだから酔う」とか、「コルク栓は開けるのが大変だから困る」とか、こういうロジックでワインを購入していることがわかるわけです。

そうすると、困ることは解決してあげればいいわけですし、うれしいとか、おいしい部分に関してはもっと伸ばしてあげれば、お客さまの喜ぶワインができるとか、こういうロジックに則ってテレビコマーシャルや色々な宣伝をするとお客さまの潜在的な認識構造に合致しているから、すごくよくわかってもらえるということが考えられるわけです。

私どもはデマテルの結果を価値構造図というものに図示しています(図5)。左から右には原因から結果の因果関係を表し、上から下は、デマテルで言うところの「中心度」というスコアでポジショニングしております。中心度というのは矢印の出入りする総和です。ですから全体のロジックの中でどのくらいその言葉がたくさん使われるのか、出入りが多い、お客さまの頭の中にしょっちゅう出てくる言葉の順番に上から並んでいるわけです。

左ほど出の矢印が多くて、入りが少ない、右ほど出が少なくて入りが多いということでプロットしています。デマテルの指標で「中心度」と「原因度」と言うものが算出できますので、それに基づいてプロットするとできるわけですね。この価値認識構造図は要約して、ワード数で上位20ワード以内を出せということで簡便化しているわけですが、これを深掘りしようとすると、バックには150人分のデータがありますから、「体によい」というのは、「ポリフェノールがよい」だけではなくて、「アルカリ性だからよい」、「飲み過ぎないからよい」、というロジックもあるということがわかります。「体によい」とどう良いのかという点では、「うれしい」だけではなくて、「体にいいといっぱい飲む」とかです。そういう方向にも論理が行くということがわかるわけです。

それから「おいしい」というのも、その前には何があるのかというと、香味の表現に関わるワードから「おいしい」にはほとんど来なくて(しいて言えば「フルーティだから」おいしい)、むしろ「料理にあう」「冷やす」「体によい」といったところからから「おいしい」ことが認識されるのですね。

デマテルによる間接パスの影響も踏まえたロジックの解析によって潜在的な影響関係をみていくとこのようなことがわかってくるわけです。

「おいしい」といいことばかりではなくて「太る」とかありますので、おいしさを説明するためには、「すごく料理に合っているからおいしそう」という雰囲気を作ってあげるべきで、「甘いからおいしいのだ」というように変な香味からくる理由をつけるとお客さまは納得してくれないということがわかりますし、おいしいということをただ説明するだけではなくて、「太らない」ということをあわせて説明してあげないといけないのだということがわかってくるわけです。

あと困ることなのですが、基本的には「飲みすぎて困る」「食べ過ぎて困る」、「酔いすぎて困る」「難しすぎて困る」「面倒で困る」というのがあるのです。「ポリフェノールで困る」というのは、「ポリフェノールが多いと体によくて飲みすぎて困ってしまう」という間接パスがすごく大きいのでこんなに線ができてしまうということなのです。

こんなふうにたったあれだけのフリーテキストのアンケートなのですが、そこからこれだけのことが読み取れる(マイニングできる)のです。

3-3.価値認識構造からわかることと資生堂の活用事例-

詳しい事例としてワインの説明のことしかできませんが、スキンケアのこととか、ファンデーションのこととか、メーキャップのこととか分析していると極めて面白いものです。

また、VACASは種々の調査手法の総称でして、他にも色々な手法があります。例えば、「差別化」手法ですが、どれが似ていて、どれが似ていないのかを差別化するためには、どのワード(認知の切り口)を用いるのがよいのかを計るやり方、普通の評価項目を決めてアンケートするにしてもそれをCSポートフォリオにする、そうするとどの評価項目が効いていて何を直すべきなのかがわかるかなど、色々な手法があり、それらをソフトとしてパッケージ化しています。

ファンデーションの事例を少しお話しますと、VACASで価値を割り出すと、「化粧崩れしない」という価値はダントツにすごい。ファンデーションの価値認識の構造を見ても、「汗をかくと化粧崩れする」「化粧崩れするといや」ということが上位に出てきます。

そのようなVACASで得られた情報をものづくりにつなげていき、出来上がったものをまたVACASで評価すると、お客さまに非常に受けるものが出来ているはずです。そして重篤な欠点が無ければ、これは相当いい商品になるのだということで商品化するわけですね。

VACASはソフトとしては市販しておりません。サービスとして販売させていただいておりまして、株式会社アーキテクトと有限会社データアートという会社に対して、このソフトをライセンス貸与しています。一般のユーザーさんはこれらの調査会社にVACAS調査を依頼していただければ、この方法論での調査ができるという形にしております。

有限会社データアートの道官さんという方が、もともとの定義法、文章完成法を開発されていて、その方と共同で特許を出させていただいています。デマテルは公知ですし、ポートフォリオを書くなんてことは、どなたでも実践できますので、皆さんが自力でやられるのでしたらいくらでもやってみていただければいいと思います。ただ、時間と労力がすごくかかるので、VACASのようにシステマテックになっていると、データさえあがっていればすぐにその日のうちに解析結果が出るということになります。

普通のテキストマイニングでは、分かち書き処理など手の込んだ作業がありますが、この定型自由文のいわば簡易型のテキストマイニングは、その分かち書き等の手の込んだ作業をしたくないから、短い単語の一言でデータが取れるように設計しているということなのです。

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 講師:林俊克氏(株式会社資生堂 研究開発本部 CS開発センター情報開発室)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年5月27日
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Vol.3.『ここまで進んでいる!テキストマイニング活用最前線』(3)

■第2講:活用事例①「定義法」

2-1.具体的なテキストマイニングの手法-VACASの「定義法」の考え方-

 「VACAS」というのは、ソフトの名前でして「Value Creation Assist System」の頭文字で、登録商標を取らせていただいておりまして、私たちの方で独自に開発したものです。方法論に関してはこれからご案内するような簡単な考え方で、それを自動的にできるようにしているだけということです。

 「感性工学」みたいなところからアプローチしようというところなのですけれども、本当のところ、?創造性豊かなびっくりするようなもの?を作るということが、世の中に対して一番インパクトがあり、すばらしいことなのです。しかしそれはなかなか統計とか工学的な方法を使って実現することがきわめて難しい事です。もしそれがわかったとしたら決して発表はしません(笑)。そこで、工学的な方法で把握が可能な「潜在ニーズの適合性」という「なるほど!」をどれだけ極められるのか、ということを念頭にVACASという方法論を考えてきたわけです。

 VACASは、お客さま自身は気づいていないが提示されれば「なるほど」と思うような潜在価値、感性価値を発見したり、それを有効に訴求したり、伝達する方法を提案・検証できます。一言で言うと、暗黙知が形式知化される、漠然となんとなくそうだとわかっている事を絵に描き文字にすることができるということです。アンケート方法については、お客さま自体何について聞かれているのか、何を評価させられているのか、どう応えることを期待されているのか、普通のアンケートですと見え見えなのですが、VACASでは客さまにはそういう事を気づかれないので、お客さまの潜在的な価値意識が引き出せるのではないかと考えております。

 それから一番重要なのが、?お客さま言葉?での評価ということでして、フリーワードによる調査なので、メーカー都合の勝手な評価項目での調査とはちがい、お客さまの本当の知覚品質がわかるということです。それからシステム化したおかげで、データはもちろんFAXとかインターネットとかで簡単にそろえることができますし、またアンケートはとても簡単なものなので、データ収集はすごく簡単にできて、それを専用のソフトウェアに流せばすぐに結果が出てくるという特徴も持っています。

 しかし絶対に誤解してもらっては困るし、非常に誤解されやすい部分で口を酸っぱくして再三いっているのですが、VACASは?打ち出の小槌?ではありません。誰も思いもつかなかったようなすごいことが出てくるのではなくて、誰かが言語化した或いは文章化したことしか扱えないのです。ですからあくまで「なるほど」を極めるということでご理解いただきたいと思います。また、「これがあれば今までの方法論はいらないのじゃないの?」と何でも物事を一つのものさしで計りたいというのが人間の性なのですけれども、そうではなくて、従来の方法論は、それはそれとして事実をある側面からみているということで真実であり必要な事なのです。そういう意味では今までは物理品質の評価という?片輪走行?していました。今後は感性的な評価、知覚品質の評価も加えて?両輪走行?すれば、もっと成功確率が上がって、さらにより重要なのは、失敗確率が下がるのではないかと思うのです。

2-2.「定義法」の具体的な調査手順と価値ポートフォリオ-

 VACASの活用事例として、ワインの顧客価値調査の事例を説明させていただきます。まずは定義法といわれるものです。価値意識の割り出しの仕方ですけれども、簡単な調査を行います(図1)。「普段飲んでいるワインとは」「理想のワインとは」という問いに対して簡単な言葉で定義してもらいます。自分のところのプロダクトを評価してもらうという意味で「国産ワイン」についても、簡単な言葉で評価してもらいます。そうすると例えば普段飲んでいるワインは「安いもの」で、「赤」でとか、「セブンイレブンで買えて」とか言うことを書いていくわけです。理想のワインとは、「ボルドー産」で、「何万円もして」など、そういうことを書くわけです。

※以下の図表は全て、林氏作成の図表やデータを基に編集担当が作成した

これだけなのです。これだけで何がわかるのかということですが、われわれは「価値ポートフォリオ」(図2)といわれるものを作りまして、横軸に「今飲んでいるワイン」はどんなものかという定義されているパーセンテージ、縦軸に「理想」で定義されるパーセンテージをとります。そうすると、例えば「安物」でとかいう要素は、今飲んでいるものは「安物」でという人が38%くらいいるのですけれども、理想は「安物」という人は12%程度しかいないのです。「香りがよい」というのは、今飲んでいるものについては2%しかいないのですけれども、理想では「香りがいい」という人が23%くらいいるわけですね。

これで何がわかるのかというと、対角線を境にして、対角線は「今はそうで、理想でもそうあってほしい」ということですから、ちょうど今世の中に出回っているものがお客さま価値にちょうどぴったりと合致している、「CSちょうどいい」というものが対角線上にきて、それより右下は今の商品で既に満たされている、お客さまの望む価値が提供されているので、もうことさらにそれを訴求したとしてもお客さんは「すごい」と思わないだろう、ということです。

この左の上に来るものは、?今こういう属性は世の中の商品にはないのだけれど、理想ではそういう属性は是非あってほしい?といっているものでして、まだ満たされていない価値領域だということで、「こっちをがんばりましょう」ということを分析できるわけですね。考え方はたったこれだけですね。ここから「香りがいいワインを造ればいい」とか、「まろやか」とか、「おいしい」とかがねらい目なのだとか、そういう事がわかってくるのです。

2-3.「定義法」から得られるデータ解析バリエーション①~CS指数-

これだけみていても色々とわかってくるわけですけれども、座標データから、この辺の座標にあると大体何%くらいの人が喜ぶ価値なのかを推定するような数式を開発しています。これは極秘中の極秘ですから、その数式そのものは申し上げられないのですが、それぞれの事業分野の人がこのポートフォリオと、そういう属性があったものが世の中でどう評価されているのかを検証して、独自の数式を作ってもらえればよいのです。一番簡単なのは、この対角線からの距離を測るというのです。あるいは原点からの傾きが立っていればいるほどまだ満たされていない度合いが強いであるとか、原点からの距離が長ければ「大勢の人が言っているわけですから大事だ」とか色々な指標が取れるわけです。

そういう指標を独自に考えていただければよいと思うのですが、私どもは色々な指標の中から、様々組み合わせて、総合指標を作りましてワインに関する価値意識のランキングを作りました。

「CS指数」と名づけておりまして、何%のお客さまに価値として認識していただけるかの推定値です。例えば「香りがよい」という価値を実現すると、160%というスコアですから、もう100%を超えて、みんな喜ぶ。「まろやかです」は117%ですからこれもみんな喜ぶ、「ボトルのデザインがよい」と86.9%の人が喜ぶ、というように、価値のランキングがこの価値のポートフォリオからできるということです。ですから商品開発の方向性としては、「香りのよいワイン」を造りましょうとか、「まろやかなものをつくりましょう」とか、開発の方向性は明らかになるわけです。そういう意味では、「香りがよい」とか「ボトルデザインがよい」とかということを訴求しているワインはほとんどみたことはないと思いませんか。国内のメーカーは「ポリフェノールがどれくらい入っていて‥」といった感じです。その一方で最近のヨーロッパやアメリカのワインの動向は、まず適度な樽の香りとか、バニラっぽい香りをつけて、すごくボルドーの高級ワインの雰囲気をかもしながら、ボトルのデザインをきれいにしているようです。今回の調査結果に合致しているなあと思いますね。あと「色がきれい」なことも重要であると分析されています。

これは150名の女性に聞いた話でして、男性とは見方が異なると思いますが、女性の財布を開くことが出来れば男性は自然についてくるという説がありますので、女性のことを先に調べるのは賢明でしょう。

2-4.「定義法」から得られるデータ解析バリエーション②~新価値、CSポートフォリオ─

それから「新価値」というのも分析できます。新価値というのはポートフォリオでいう、現状では一切定義されないけど、理想としてだけ定義されるもののことで、理論的に新価値と考えられるわけです。「高い」とか、「ボトルデザインがよい」とかが新価値になります。数式を照らし合わせると、8%くらいの人が新価値として言われていることは、お客さま価値としてはある程度高いということです。「ゴキブリが一匹いれば、10匹はいる」のと同じようなことです。考え方はこれだけなのです。

価値意識に照らし合わせて国産のワインについては、「安価」「手ごろ」「安心」「飲みやすくて」みたいなことが定義されるわけですが、これを先ほどの価値ポートフォリオそれぞれのワード上に、バブルチャートで丸の大きさによって何人の人がそれを評価したかを載せると、どの価値に反応しているのかがわかりますね。そうすると国産ワインは「手ごろな価格」というところには極めて反応するのですが、そのようなあまりどうでもよい価値に反応してくれてもねぇということです。大事なところでは「おいしい」「品質がよい」「高価」「高級感がある」「幸せ」「酸味強すぎない」というところで反応していることがわかって、その商品のパフォーマンスが把握できるのです。

それを先に述べました価値の重要度の総合指標であるCS指数とその価値に対する評価との積を算出して、評価に重要度の重みづけをして積算していくことで、潜在的な価値のパフォーマンスを推定してみますと、国産ワインの強みは「高いこと」、その次は「安いこと」、この辺は非常に矛盾しております。まあお客さまは常に矛盾する生き物ですから、非常に難しいのですが、その次にくる「おいしくて」「手ごろ価格」「香りがよくて」「安心できて」「飲みやすくて」というような価値が国産ワインの強みとして出てきていますね。ですから、すごく両極端のものを作ればいいんじゃないかと思いますよ。国産の技術の粋を尽くした超高い一本1万円以上するようなものと、ディリーな600~700円くらいで十分おいしく、香りのも色も良いといったようなものを作るということが提案できるわけです。

あと価値の重要度と、その評価がわかれば皆さんおなじみの「CSポートフォリオ」というものが描けますね。横軸に重要度と、縦軸に評価をとると、重要度が高いもので評価が低いものというのは致命的なわけですから、そうするとここから国産ワインは何を改良するべきかが提案できるわけでして、その考え方からすると一番価値が重要で評価が低いのは「香りがよい」というところです。まず香りをよくしなくはダメですよと。また「まろやか」「ボトルのデザイン」は、ぜんぜん評価されていないわけですから、重要なのにもかかわらず、これは何とかしなくてならないということが提案できるわけです。これを国産ワインの研究開発の人に見ていただいて、「こうゆう物を作りなさい、しかも価格的には両極端でね」というふうに、たったあれだけのアンケートでここまで分析、提案ができるわけです。

先ほどのものが定型自由文形式のアンケートのテキストマイニングです。広い意味でこれもテキストマイニングだと考えています。

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 講師:林俊克氏(株式会社資生堂 研究開発本部 CS開発センター情報開発室)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年5月20日
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Vol.3.『ここまで進んでいる!テキストマイニング活用最前線』(2)

■第1講:企業活動の中のテキストマイニング

1-1.現在の業務内容と、「テキストマイニング」という手法に関わるようになったきっかけ-

私は「情報開発室」というところに所属しており、お客さまに対して化粧品や美容の情報をいかにわかりやすくお伝えするのかという情報コンテンツを作成する業務に携わっています。情報作りということについては、どうしてもお客さまの価値意識がどこにあるのか、どういうことを申し上げるとお客さまが喜んだり感動してくださるのか、そういう一番胆のところを探さなくてはいけないということがありまして、そこの部分を担当しております。

一番胆のところを探すといっても、どのような方法論があるのかということで世の中をみてまいりますと、グループインタビューとか定量調査、アンケートとか、色々な方法論があるわけですけれども、どれも物足りないというか、私どもも含め世の中でさんざんやられてきている割にはお客さまの喜びとか、関心とかを喚起することができなくなってきているのです。ではどうすればよいのかということで、人には頼っていられない、自分たちで方法論を開発しなくてはということになり、その方法論自体の開発ということに業務の重点が移ってきました。志は情報開発や商品開発にあるわけですけれども、その前段階として、手法開発という業務が重くなってきているという状況です。

そのような状況のなかでこのテキストマイニングという技術を、方法論として開発してきたということです。テキストマイニングの開発が仕事の全てというわけではありませんで、これはあくまで手段であると考えています。世間でもっとよい方法論が出てくれば、すぐにでもそちらに乗り換えるかもしれません。

1-2.資生堂の社内でのテキストマイニング手法の導入状況-

社内での手法開発を一手に引き受けているわけではなく、様々な部門とコラボレーションをとりながら、お互いのいいところを補いあって進んでいます。本社にお客さまセンターという部門がございまして、そちらの方がお客さまの声をコールセンターで受けたり、CSテストグループみたいな部署がありまして、いわゆるカスタマーサティスファクション(顧客満足)を計ったりということをしているのです。私どもが開発したVACAS(バッカス)とかDIONISOS(ディオニソス)という方法論につきましては、そういった部署でお客さまの意識を計る方法論の一つとしてご採用いただけているといったような状況です。

逆に私たち研究所の人間は、お客さまセンターに集まってくるお客さまの声の情報を頂きそこからテキストマイニングをすることで、「次に何を作ろうか」「どういう研究テーマを起こそうか」、そういうふうなところに使わせてもらっているのです。

本社ではお客さまの声をテキストマイニングしたい、研究所はテキストマイニング的な手法からお客さまの方を見て商品開発に役立てたいというアプローチが両方あったわけですけれども、それらがクリエイティブ・インテグレーション(創造的統合)を遂げて、定型の自由文を解析するVACASとか非定型の自由文でも解析できるDIONISOSというテキストマイニングのツールの形で方法論として確立してきたので、双方の技術や資産を使い合うことができるようになってきたわけです。

1-3.社内でのテキストマイニング手法導入の経緯のなかでの要請-

お客さまセンターにあるコールセンターではフリーダイヤルを中心に年間約45万件のお客さまからの問い合わせを頂いております。それは全部オペレーターがその場でリアルタイムにコンピューターに入力して、データベースとして蓄積されております。そしてフリーワードで自由に検索することができますし、カテゴリーごとに分けてデータベース化しておりますし、それが好意的な意見なのか、それともクレーム的なものなのかという観点から、どちらの比率が多いのかという、そういうデータは瞬時に出るようなシステムは構築されているのです。そのシステムは「ボイスネットC」という名前で、いろいろなところでご紹介させて頂いています。

そういう形では、所謂テキストマイニングという形で昔からやってきていたのですが、コンテンツそのもの一つ一つに立ち入ってどこまで読み込めるのかという観点から言いますと、さすがに45万件の1件1件を読むことは事実上不可能なことです。それで一つ一つのコンテンツまで読み込みながらそれらを要約して、要するに大多数の人は何をおっしゃっているのかということを把握したいというニーズは昔からありました。方法論としていろいろな会社からご提案をいただく「テキストマイニングではこういうことができますよ」というソフトで試してはいるのですが、今のところどれも「ちょっとなあ・・・」というような状況です。そういうことを背景に使えるテキストマイニングツールの必要性が非常に高まってきつつあったのです。

今は各研究員の机の上に1台づつパソコンがありまして、その端末からイントラネットでデータベースとアクセスし、お客さまの声情報を自由に検索できるようなシステムが整っております。自分の担当している商品をボタンでぽんと押すと、「1400件ヒット」とか出てきて、それをワードやエクセルに落として読むのですが、100人分も読むとさすがにウンザリしてきます。ですから何らかの形でそれをサマライズする、テキストマイニングして、「肝は何なのだ」という要約を簡便に出すというニーズはとても強くあるわけです。

1-4.商品開発の手段としてテキストマイニングをはじめた背景─

その一方で私ども研究所の立場として商品開発という観点でものを考えますと、新製品を出す際には必ずマーケットリサーチをかけるわけです。定量的なアンケートですとか、グループインタビューとかで仮説を立ててきて、それで「これはいけるはずだ」「お客さまがこれを望んでいる」という、それで製品を作って「これでどうだ!」というふうに世の中に出すわけです。社内的には、以前はですね、「多変量解析研究会」の幹事的な仕事をする人がいたことがあるくらいマーケティングリサーチには積極的な時代もありましたが、ある時期からその伝統が崩れてしまいまして、最近ではデータに基づいたマーケティングリサーチをあまり行ってきていなかったのですね。どちらかといえば、調査会社であるとか、広告代理店さんに丸投げをしてということが多かったのですが、あまりにも当たらないので、そろそろ、やはり自社で開発しなくてはということになってきていると思うのです。

どうもこう、当たらないといいますか受けない状況があるわけで、何でそうなるのかということを考えてまいりますと、通常のアンケートは大体そのアンケートを設計した時点で、もうアンケートを作る人の主観が入っているわけです。質問でどういう項目を聞くのかということ自体で。例えばクレンジングフォームをテストするときには、常識的には「泡立ちはどうですかとか」「泡の質はいかがですか」「すすぎやすさはどうですかとか」「その後肌ががさがさになりませんか」という、そういうことを聞きますよね。でも今では世の中そういう常識的な部分での品質が劣悪なクレンジングフォームなんかはなくて、お客さまの興味は香りと容器の色、かわいさとかにあるのかもしれないわけです。

ところがアンケートなんかにはそういう質問項目はないわけですね。そうするとお客さまにとっては、まるっきり大きなお世話みたいなことばかりを聞いていて、肝心なことは何も聞いていないアンケートをやって、それから仮説を作って、一生懸命に物を作っているという「愚の骨頂」みたいなことをやっている可能性があるのです。

1-5.テキストマイニングにおけるデータ収集の手法─

われわれ研究所サイドとしては、そういうやり方を盲目的に信じていいのかというで、本当のお客さま価値はどこにあるのかということを考える際には、全くフリーワードで、お客さまに思っていることを言ってもらって、そこを解析していくことをやらなくてはいけない、そちらのアプローチが必要であると思ったのです。そのツールとしてはいわゆるテキストマイニングができればよいのですれども、それをいきなりするというは難しかったので、擬似的なテキストマイニングとして、定型の自由文形式という形のアンケート形式を開発し、それで調べていくということをやっていたのです。それがVACASです。

非定型の自由文の解析については緒に就いたばかりで実際の運用はこれからになってくると思います。ただやはりですね、色々とテキストマイニングしてみてわかることは、非定型の自由文というのはボリュームの割にはコンテンツが少ないです。それに対して定型自由文はアンケートを受ける人には多大な負荷を与えることになりますが、本当に凝縮された情報が取れますね。その意味では、今後は調査の全てが自由文のテキストマイニングに収束するということではなくて、ケースバイケースで用途に応じて定型自由文のテキストマイニングと否定形自由文のテキストマイニングとを使い分けていくということが行われるようになっていくのではないでしょうか。

アットコスメ(@コスメ)という化粧品のサイトがありますよね、そこにある口コミ情報をとってきてそれをマイニングした結果を後ほどご紹介しますが、そのようなものをすぐにマイニングできるという状況になってきました。(マイニングする対象の)コンテンツは自由自在に何からとってきても大丈夫ということです。ただ、このようなマイニングができるようになってきたのは最近の話です。

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 講師:林俊克氏(株式会社資生堂 研究開発本部 CS開発センター情報開発室)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年5月14日
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Vol.3.『ここまで進んでいる!テキストマイニング活用最前線』(1)

講師:林俊克氏(株式会社 資生堂研究開発本部CS開発センター情報開発室)

林俊克(はやし・としかつ)
【個人プロフィール】
1985年岡山大学農学研究科卒業後、資生堂入社。製品開発部門、研究管理部門、原料開発部門、CS開発部門を経て現在製品開発センター製品化計画部情報開発室に在籍。魅力工学研究会理事、薬学博士。専門は、多変量解析、統計解析に関する技法など。近著に「ワインの顧客価値調査」(朝野煕彦編『魅力工学の実践』所収)ほか、論文多数。

【関連書籍】
朝野煕彦編『魅力工学の実践』(2001)海文堂出版
※紀伊国屋書店ブックガイド

【関連URL】
株式会社 資生堂 http://www.shiseido.co.jp/
魅力工学サイバーラボラトリー http://www.miryoku.org/index.html
株式会社 アーキテクト http://www.architect.co.jp/
みんなのクチコミサイト アットコスメ http://www.cosme.net/

■連続Webレクチャーの趣旨

「スピード」という言葉が時代のかけ声のようです。本屋に積まれている、図解入りでポイントをかいつまんで説明する流行りの本を読めば、その瞬間はわかった気になるものです。でも、事実や本質を理解するためには、専門家の声にじっと耳を傾けて学んでみる必要もあるのではないでしょうか。何かを学び始める、あの新鮮な気持ちをもって。さあ講義の始まりです。
「学ぶ方法を学ばない人は未来の盲目である(A.Toffler)」

■今回のフロントストーリー

第3回講義は、「データマイニング」と並んで、昨今のシンポジウムでは花形のテーマになりつつある「テキストマイニング」についてです。あるテキストデータを市販の解析ツールにかければ何らかの情報は得られるわけですが、それをいかに経営資源として活かしていくのか、各企業の担当者も頭を悩ませているのが実情ではないでしょうか。そこで今回は、市場の声をマイニングしていかにそれを商品開発の場へ活用しているのか、最も先進的と思われる株式会社資生堂様のノウハウの一端をレクチャー頂きます。

第1講 : 企業活動の中のテキストマイニング
第2講 : 活用事例①「定義法」
第3講 : 活用事例②「文章完成法」
第4講 : フリーアンサー解析の進化

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 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
 ◎初出:2002年5月14日
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Vol.1. 『マーケティングパラダイムの革新とデータマイニング』(4)

第3講 : データマイニング手法の実際

3-1 ―データマイニングという手法が使われるようになった背景はどのようなことでしょうか―

歴史的な登場の経緯についてはよくわかりませんが、ただ今までの統計的な手法と違いは明確にあります。典型的な統計データというのは、母集団があって、そこからサンプリングをして、そのサンプリングデータの解析から母集団の特性値を推定するというところで統計的な検定を行ったり、推定を行ったりしているわけです。

データマイニングで使うものはそのようなデータではないのです。母集団そのもののデータであったり、自然に溜まってくるようなデータであったりと、例えば典型的なものですと、消費者の購買履歴のデータであったり、カタログ販売のデータであったり、とにかくサンプリングデータではなくてお客さん全員のデータがあるわけです。そこから統計的な推定を行ったり、母集団の推計を行ったりする事は全然必要なくて、ただその与えられたデータ全体に対して何らかの手法を適応して、有意味なもの、構造あるいはパターンを発見していこうというのが、データマイニングの目的ということになります。

仮説が事前にある場合もあるし、ない場合もありますが、少なくともデータマイニングは仮説検定をするということが目的ではなく、何か構造を、どういうものを発見できるのか否かに、データマイニングのウェイトがおかれることになると思います。

3-2 ―いずれにしても分析の着眼点をしっかり持たなくてはいけないことがよくわかりました。ところで、データマイニングの代表的な手法を教えてください―

データマイニングの代表的な手法として、よく使われるものとしては、「決定木」がよく知られています。その次くらいに「アソシェーションルール」があるのですが、それが最も使用される場面としては、「ショッピング・バスケット・アナリシス」、あるいは「マーケット・バスケット・アナリシス」と呼ばれるもので、何と何が一緒に買い物かごの中に入りやすいのか、そういう意味での連関・関連性を把握しましょうという分析でよく使われるものです。

スーパーマーケットでもWeb上でのショップでも良いのですが、一度に複数のものを購入する購買行動はたくさんあります。そうするとビールを買った人は、一緒に何を一番購入しやすいのか、紙オムツを買った人は何を一番買いやすいのか、といった何を買った人は何を買いやすいのかということを調べたいわけです。けれどもスーパーだと2~3万の商品があるわけで、その組み合わせということになると無限ではないですけれども、膨大な組み合わせになるわけです。ペアを全部調べようと普通のやり方をしていると10年かかってしまうということになってしまうわけですが、それを効率よく、どれとどれのペアの結びつきが強いのかということを出してくるのがアソシェーションルールです。

3-3 ―決定木の方はどのようなものですか―

決定木の方は樹形図を描く、木のような構造に分類していくものです。例えば良いお客さんと、悪いお客さん、よく買ってもらうお客さんとそうでないお客さんを分けましょうという時に、そのお客さんの属性、年齢や収入とか色々と属性が入っていたり、あるいは行動の特性が色々入っていたりすると、どういう風に切り分けていくと、良いお客さんとそうでないお客さんが明確に区別できるのかという、ツリー型に分類して分けていきましょうというのが、決定木といわれる手法で、その中でも、計算の仕方で色々な手法があります。優良なお客さんを区分するなど、特に金融機関などでは、倒産する機関とか、貸し倒れが起こりそうな人を分類するところでよく使われています。

私自身では、決定木を使い、どういう人が次に何を買うのか予測するということをしたことがあります。金融機関などでは、データマイニングによるコンサルテーションを行う企業が活躍しているようです。

3-4 ―金融・保険・教育など理性的な商品のほうが使われやすそうですね。データが膨大に溜まるコンビニのPOSや懸賞キャンペーンのデータ分析などの場面で使用されていますか―

コンビニのPOSデータに関しては可能性はあると思いますが、まだそれほどやられているわけではないと思います。キャンペーンデータの分析について、今のところは、継続的なキャンペーンをやっている場合は、次のキャンペーンの時に、前に応募した人にあらかじめ優遇して商品を送るとか、まだその程度だと思います。

3-5 ―データマイニングでの標準的なソフトはありますか―

SPSS社の「クレメンタイン」やSAS社の「エンタープライズマイナー」というのと、SGI社の「マインセット」などが知られています。数量的にみて一番売れているのはクレメンタインのようですが、SASのエンタープライズマイナーはとても高額なので、金額ベースではそちらの方が大きいかもしれません。

3-6 ―今後データマイニングはどのような展開をするのでしょうか―

一つは「データベース化」が鍵だと思います。どういうデータベースを、一企業が構築するのか、あるいはシンジケート的に構築していくのかはわかりませんが、企業が構築するとなると、例えば小売業みたいみたいなところ、あるいはネット小売業のようなところですと、自動的にトランザクションデータが、電子データの形で溜まっていきますので、それはやはりデータマイニングの活用される余地が非常に大きいと思います。

ただ、そうではない典型的な日用消費財メーカーは、100円、200円のものを流通を介して売っているわけですから、顧客と接しているわけではないので、そうすると自動的にそういうデータが自分のところに溜まるわけではないのです。そういう時には、キャンペーンデータベースというのは一つの方法だと思います。

今まではハガキで応募されていたのですが、それをデータベース化しようとすると、大変なことになります。ですからそれをネット応募にした場合には、自動的にデータベース化されるわけです。それをどう活用していくのか、すぐさまデータマイニングを使うというわけではありませんが。どういうデータが日常業務の中でためられる仕組みを持っているのかということで活用の幅が決まってくると思います。

3-7 ―データマイニングが活躍する新しい領域とはどのようなところだと思われますか―

1つの有望な領域は,「テキストマイニング」という分野です。これは家電メーカーなどがやっているようですが、クレームデータが山ほどくると、全部をテキストの形で見ていられないので、何らかの形で処理をして、どういうような製品で、どういう種類のクレームが、どういうところで発生しているのか、逆を言うとそこのところをどう修正すれば、製品として成功するのかということの裏返しになりますから、そこから商品開発のアイデアに結びつけていこうという方向性はあると思います。

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 講師:守口剛氏(立教大学社会学部 教授 マーケティング論)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
  守口剛先生は、2007年7月現在「早稲田大学商学部 教授」です。
 ◎初出:2001年12月3日
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Vol.1. 『マーケティングパラダイムの革新とデータマイニング』(3)

第2講 : Webリサーチの進化と展開

今までですと、Webユーザーというのは偏りがあるので、代表的な意見は採れないのではないかとの議論はずっとされていました.しかし,現在インターネットが急速に普及しています。最も新しい調査ですと、40数パーセントというインターネットの世帯普及率の数字が出ています。そういうことになると、通常の一般的な消費者の属性分布と、まだやはり偏りがありますが,大分近くなってきているということがまず一つと、それから調査会社によっては、Webユーザーの特徴と一般ユーザーの特徴と、どう離れているのかということをきちんと把握し、適切なウェイトバックをすれば一般値をとれるだろうというようなことを開発しているところもあります。やはり伝統的なリサーチ会社の方はWebはダメだという人もまだいますけども、私自身は相当出来るような調査ツールになってきているのではないかと思います。

デジタル製品やWeb上での売り買いされるような商品といった分野によっては、逆に調査に適していることもあるのではないでしょうか。

インターネットの調査は従来の郵送調査や訪問調査なんかに比べるとかなりコストが安くできるようです。実際調査として使う側からみると、そこがモチベーションになっていることもあると思います。

2-2 ―Webリサーチのメリット・デメリットは具体的にどのようなことでしょうか―

他の調査法と同じことをやって安くなるということだけではなく、むしろWeb調査でないと引き出せない部分、例えば自由回答部分の量が非常に多くなるとよく言われていますし、それから回収のスピードが全然速いですし、あるいはインタラクティブな調査が出来るということ、あるいは回答を分岐させていくこと、画像を使うことが出来ます。従来の調査がただ安く早くできますということだけではなくて、そこでは出来なかったものが出来るようになりますというそっちの利点も結構あるように思われます。

世論調査とか、日本の市場での市場規模を推定しなければならない場合にはウェイトバックする必要があるでしょうけれども。その調査から定性的な情報を引き出そうとか、何か開発のヒントを得ようとする場合にはウェイトバックする必要ないからでしょう。そうしなければならない場合とそうしなくても良い場合があり、逆を言うと、そうしない例の方が多いのではないかと思われます。

2-3 ―Webでのリサーチということで言うと、ユーザビリティ調査が増えていると思われます。サイトにおけるユーザーの満足度や評価を測定する指標にはどのようなものがありますか―

「満足度」までわかるかどうかははっきりわかりませんが、一つはNetRatings社がしているように、自然な形でそれぞれの人がどういうホームページにアクセスして、どういうページに移っていって、それぞれにどの位の滞留時間があるのかを見ていって、結果的にどこで逃げ出してしまうのかということはみることができます。

一般的なアクセスログデータを取って、そこから分析するということもありますが、その辺は後から出てくるデータマイニングの一つのトピックになっていまして、例えば去年のデータマイニングの国際大会で、KDD(ナレッジ・ディスカバリー・アンド・データマイニング)という国際会議がありますが、そこでKDDカップというものを毎年行っています。それは特定の題材を出して、研究者ないしは研究者チームがその題材について分析を競い合うというものです。去年のテーマの1つが,アメリカのある靴のサイトのログデータを分析して、どういうパターンが見られるとサイトから逃げてしまうのかを当てて下さい、というものでした。それを70くらいの研究チームが分析して、その精度を競い合うということをしています。その際データマイニングの手法を使うと、かなりの確率で、どのシークエンスをとり、どのページに来ると逃げてしまう、ということがかなり正確に予測できます。そのようにアクセスログのデータから、どこのページで逃げやすいのか、というのも、そのページに何らかの問題点があるから離れるので、それを「キラーページ」とかいう言い方をしているようです。そのページを、行動からわかるということです。ただ、キラーページはこれだということがわかっても、なぜなのかというところまでは推測でしかわかりません。

これは観察法ですけれども、調査会社によっては、実際に会場に人を集めて、サイトにアクセスさせ、ある課題を与えて、アクセスする場合はどういうところで迷ってしまっているのか、どういうところで時間がかかっているのかを観察するということをするようです。場合によっては、そこにアイカメラみたいな装置を加えて、どこを見ているのかわかるような仕組みを組み合わせて、観察します。それはまた自然な観察とはちょっと離れてしまいますが、そのような方法で問題のページのどこが引っかかっているのかみることができるかと思います。

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 講師:守口剛氏(立教大学社会学部 教授 マーケティング論)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
  守口剛先生は、2007年7月現在「早稲田大学商学部 教授」です。
 ◎初出:2001年11月26日
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Vol.1. 『マーケティングパラダイムの革新とデータマイニング』(2)

第1講 : マーケティングのパラダイムシフト

色々な側面での変化が見られます。顧客としての消費者、企業の双方が変わってきたといえると思います。つまり一方の要因のみが変化したのではなく、消費行動とマーケティング活動のインターラクション(相互作用)によって、今日のような変化が生じたと考えられます。

より具体的に言えば、売り手(企業)と買い手(顧客)との間で2つのシフトが起ってきていると考えられます.ひとつは従来は買い手側が行っていた作業が売り手側にシフトしてきたという側面,もう一つは,従来売り手側にあった決定権が、買い手側に移行してきたということです。後者の一つの例として、BTO(build to order)があげられます.これは,買い手側に製品スペックの決定権がシフトした例だと位置付けられます.この例はデルコンピューターのPCや資生堂など化粧品がネットを通じて注文・販売されていることに見られます。領域的には、ハード機器から、お酒といったソフト的なものまであります。

1-2 ―製品やサービス以外で、売り手から買い手へといったシフトはありますか―

マーケティングを構成する4つの要素[製品・価格・プロモーション・流通]のうち、今申し上げた製品の他に、価格の決定権さえ、シフトしつつあります。インターネット上でのオークションや逆オークション(買い手側から商品やサービスの条件を提示し、それに応える形で企業側が入札する)もその例と考えられます。

また、プロモーションに関しても、買い手主導に変化してきています。例えば、売り手側からの情報伝達については今までのマス広告やダイレクトメールのように一方的に送りつけるものではなくて、買い手側の許可を取り(オプト・イン)、必要なものだけを送るケースもかなり一般的になってきました。

1-3 ―シフトには二側面あると聞きましたが、二つ目のシフトはどのようなものですか―

さて、もうひとつのシフトは、買い手側が行っていた作業を売り手側が取り込むようになってきた,というシフトです.その一つの例として,「ソリューションセリング」というものがあります。これは,消費者の生活の問題を解決するような形で販売することを言います。例えばスーパーマーケットでの販売方法としての「ミール・ソリューション」は、メニューや売り場での材料探しに時間をかけたくない主婦に対応し、メニューそのものを提案するものです。これは,従来,買い手が行っていたメニューを考える作業や調理の作業を売り手側が代替しているととらえることができます。

作業のシフトのもう一つの典型的な例は,買い手側の「情報処理」が売り手側にシフトしてきたことです。ここでいう情報処理とは、商品やサービスを購入するに当たって買い手側が行うこと、つまり選択肢の中での情報の探索・収集から、選別、整理、そして最終的な意思決定までの一連の流れを指します。買い手側からすると、選択肢が増えたことやいろんな商品の情報収集が容易に行えるようになった結果、却って情報処理への負荷が増大し、必要な情報のみをタイミングよく与えられることが必要になってきています。このように必要な情報だけを、売り手側からのリコメンドという形で提供することです。このようなリコメンデーションシステムが多くの業種で観られるようになってきています。例えば,アマゾン・ドット・コムでは、様々な方法で消費者に対してのリコメンドを行っています。

1-4 ―どのような動きがマーケティングリサーチの分野では起こっていますか―

マーケティングリサーチはその方法論から大きく3つに分類できます。それらは,アンケートなど使った「質問法」、そして「観察法」、売り場などを実際に作り色々と条件を変えてみる「実験法」です。CRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)の進展やデータのデジタル化など情報技術の発展によって、顧客情報の爆発的な増大という事態が起きてます。例えば、Webのアクセスログデータ、販売促進やさまざまなキャンペーンの個人データ、航空機や百貨店などのFSP(フリクエント・ショッパーズ・プログラム)といった個人の販売履歴など、顧客に関する大量の情報がデジタルデータとして蓄積されています。FSPは、主に購買記録としてのデータが中心で、大量のトランザクションデータとして活用できます。また、あとでお話するデータマイニングという手段を使うことによって、顧客中心のビジネス展開をはかり、顧客固定化につなげていくのに有効なものだと考えます。

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 講師:守口剛氏(立教大学社会学部 教授 マーケティング論)
 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
  守口剛先生は、2007年7月現在「早稲田大学商学部 教授」です。
 ◎初出:2001年11月19日
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Vol.1. 『マーケティングパラダイムの革新とデータマイニング』(1)

講師:立教大学社会学部 守口 剛 教授(マーケティング論)

守口 剛(もりぐち・たけし)
【個人プロフィール】
立教大学社会学部産業関係学科教授、工学博士。財団法人流通経済研究所客員研究員。1957年新潟県生まれ。96年東京工業大学大学院博士課程修了。97年立教大学社会学部助教授、98年より現職。専門はマーケティング論。主著『マーケティングの数理モデル』(朝倉書店 共編著 2001年)、『セールス・プロモーションの実際』(日経文庫 共著 1998年)『マーケティング・ハンドブック』(朝倉書店 共監訳 1997年)他、共著・論文多数。

◆連続Webレクチャーの趣旨

「スピード」という言葉が時代のかけ声のようです。本屋に積まれている、図解入りでポイントをかいつまんで説明する流行りの本を読めば、その瞬間はわかった気になるものです。でも、事実や本質を理解するためには、専門家の声にじっと耳を傾けて学んでみる必要もあるのではないでしょうか。何かを学び始める、あの新鮮な気持ちをもって。さあ講義の始まりです。
「学ぶ方法を学ばない人は未来の盲目である(A.Toffler)」

◆今回のフロントストーリー

第1回講義は、データベースマーケティングの分野では日常用語になりつつある「データマイニング」についてです。それが登場した背景をふまえつつ、具体的にどのようなことが出来るのかまでを講義いただきます。講師は、マーケティング論がご専門の立教大学社会学部教授の守口剛先生です。最初に「データマイニング」が登場するまでの時代背景を、クリアに読み解いていきます。

第1講 : マーケティングのパラダイムシフト
第2講 : Webリサーチの進化と展開
第3講 : データマイニング手法の実際

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 ※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
  守口剛先生は、2007年7月現在「早稲田大学商学部 教授」です。
 ◎初出:2001年11月19日
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