■第2講:活用事例①「定義法」
2-1.具体的なテキストマイニングの手法-VACASの「定義法」の考え方-
「VACAS」というのは、ソフトの名前でして「Value Creation Assist System」の頭文字で、登録商標を取らせていただいておりまして、私たちの方で独自に開発したものです。方法論に関してはこれからご案内するような簡単な考え方で、それを自動的にできるようにしているだけということです。
「感性工学」みたいなところからアプローチしようというところなのですけれども、本当のところ、?創造性豊かなびっくりするようなもの?を作るということが、世の中に対して一番インパクトがあり、すばらしいことなのです。しかしそれはなかなか統計とか工学的な方法を使って実現することがきわめて難しい事です。もしそれがわかったとしたら決して発表はしません(笑)。そこで、工学的な方法で把握が可能な「潜在ニーズの適合性」という「なるほど!」をどれだけ極められるのか、ということを念頭にVACASという方法論を考えてきたわけです。
VACASは、お客さま自身は気づいていないが提示されれば「なるほど」と思うような潜在価値、感性価値を発見したり、それを有効に訴求したり、伝達する方法を提案・検証できます。一言で言うと、暗黙知が形式知化される、漠然となんとなくそうだとわかっている事を絵に描き文字にすることができるということです。アンケート方法については、お客さま自体何について聞かれているのか、何を評価させられているのか、どう応えることを期待されているのか、普通のアンケートですと見え見えなのですが、VACASでは客さまにはそういう事を気づかれないので、お客さまの潜在的な価値意識が引き出せるのではないかと考えております。
それから一番重要なのが、?お客さま言葉?での評価ということでして、フリーワードによる調査なので、メーカー都合の勝手な評価項目での調査とはちがい、お客さまの本当の知覚品質がわかるということです。それからシステム化したおかげで、データはもちろんFAXとかインターネットとかで簡単にそろえることができますし、またアンケートはとても簡単なものなので、データ収集はすごく簡単にできて、それを専用のソフトウェアに流せばすぐに結果が出てくるという特徴も持っています。
しかし絶対に誤解してもらっては困るし、非常に誤解されやすい部分で口を酸っぱくして再三いっているのですが、VACASは?打ち出の小槌?ではありません。誰も思いもつかなかったようなすごいことが出てくるのではなくて、誰かが言語化した或いは文章化したことしか扱えないのです。ですからあくまで「なるほど」を極めるということでご理解いただきたいと思います。また、「これがあれば今までの方法論はいらないのじゃないの?」と何でも物事を一つのものさしで計りたいというのが人間の性なのですけれども、そうではなくて、従来の方法論は、それはそれとして事実をある側面からみているということで真実であり必要な事なのです。そういう意味では今までは物理品質の評価という?片輪走行?していました。今後は感性的な評価、知覚品質の評価も加えて?両輪走行?すれば、もっと成功確率が上がって、さらにより重要なのは、失敗確率が下がるのではないかと思うのです。
2-2.「定義法」の具体的な調査手順と価値ポートフォリオ-
VACASの活用事例として、ワインの顧客価値調査の事例を説明させていただきます。まずは定義法といわれるものです。価値意識の割り出しの仕方ですけれども、簡単な調査を行います(図1)。「普段飲んでいるワインとは」「理想のワインとは」という問いに対して簡単な言葉で定義してもらいます。自分のところのプロダクトを評価してもらうという意味で「国産ワイン」についても、簡単な言葉で評価してもらいます。そうすると例えば普段飲んでいるワインは「安いもの」で、「赤」でとか、「セブンイレブンで買えて」とか言うことを書いていくわけです。理想のワインとは、「ボルドー産」で、「何万円もして」など、そういうことを書くわけです。
※以下の図表は全て、林氏作成の図表やデータを基に編集担当が作成した

これだけなのです。これだけで何がわかるのかということですが、われわれは「価値ポートフォリオ」(図2)といわれるものを作りまして、横軸に「今飲んでいるワイン」はどんなものかという定義されているパーセンテージ、縦軸に「理想」で定義されるパーセンテージをとります。そうすると、例えば「安物」でとかいう要素は、今飲んでいるものは「安物」でという人が38%くらいいるのですけれども、理想は「安物」という人は12%程度しかいないのです。「香りがよい」というのは、今飲んでいるものについては2%しかいないのですけれども、理想では「香りがいい」という人が23%くらいいるわけですね。
これで何がわかるのかというと、対角線を境にして、対角線は「今はそうで、理想でもそうあってほしい」ということですから、ちょうど今世の中に出回っているものがお客さま価値にちょうどぴったりと合致している、「CSちょうどいい」というものが対角線上にきて、それより右下は今の商品で既に満たされている、お客さまの望む価値が提供されているので、もうことさらにそれを訴求したとしてもお客さんは「すごい」と思わないだろう、ということです。
この左の上に来るものは、?今こういう属性は世の中の商品にはないのだけれど、理想ではそういう属性は是非あってほしい?といっているものでして、まだ満たされていない価値領域だということで、「こっちをがんばりましょう」ということを分析できるわけですね。考え方はたったこれだけですね。ここから「香りがいいワインを造ればいい」とか、「まろやか」とか、「おいしい」とかがねらい目なのだとか、そういう事がわかってくるのです。

2-3.「定義法」から得られるデータ解析バリエーション①~CS指数-
これだけみていても色々とわかってくるわけですけれども、座標データから、この辺の座標にあると大体何%くらいの人が喜ぶ価値なのかを推定するような数式を開発しています。これは極秘中の極秘ですから、その数式そのものは申し上げられないのですが、それぞれの事業分野の人がこのポートフォリオと、そういう属性があったものが世の中でどう評価されているのかを検証して、独自の数式を作ってもらえればよいのです。一番簡単なのは、この対角線からの距離を測るというのです。あるいは原点からの傾きが立っていればいるほどまだ満たされていない度合いが強いであるとか、原点からの距離が長ければ「大勢の人が言っているわけですから大事だ」とか色々な指標が取れるわけです。
そういう指標を独自に考えていただければよいと思うのですが、私どもは色々な指標の中から、様々組み合わせて、総合指標を作りましてワインに関する価値意識のランキングを作りました。
「CS指数」と名づけておりまして、何%のお客さまに価値として認識していただけるかの推定値です。例えば「香りがよい」という価値を実現すると、160%というスコアですから、もう100%を超えて、みんな喜ぶ。「まろやかです」は117%ですからこれもみんな喜ぶ、「ボトルのデザインがよい」と86.9%の人が喜ぶ、というように、価値のランキングがこの価値のポートフォリオからできるということです。ですから商品開発の方向性としては、「香りのよいワイン」を造りましょうとか、「まろやかなものをつくりましょう」とか、開発の方向性は明らかになるわけです。そういう意味では、「香りがよい」とか「ボトルデザインがよい」とかということを訴求しているワインはほとんどみたことはないと思いませんか。国内のメーカーは「ポリフェノールがどれくらい入っていて‥」といった感じです。その一方で最近のヨーロッパやアメリカのワインの動向は、まず適度な樽の香りとか、バニラっぽい香りをつけて、すごくボルドーの高級ワインの雰囲気をかもしながら、ボトルのデザインをきれいにしているようです。今回の調査結果に合致しているなあと思いますね。あと「色がきれい」なことも重要であると分析されています。
これは150名の女性に聞いた話でして、男性とは見方が異なると思いますが、女性の財布を開くことが出来れば男性は自然についてくるという説がありますので、女性のことを先に調べるのは賢明でしょう。
2-4.「定義法」から得られるデータ解析バリエーション②~新価値、CSポートフォリオ─
それから「新価値」というのも分析できます。新価値というのはポートフォリオでいう、現状では一切定義されないけど、理想としてだけ定義されるもののことで、理論的に新価値と考えられるわけです。「高い」とか、「ボトルデザインがよい」とかが新価値になります。数式を照らし合わせると、8%くらいの人が新価値として言われていることは、お客さま価値としてはある程度高いということです。「ゴキブリが一匹いれば、10匹はいる」のと同じようなことです。考え方はこれだけなのです。
価値意識に照らし合わせて国産のワインについては、「安価」「手ごろ」「安心」「飲みやすくて」みたいなことが定義されるわけですが、これを先ほどの価値ポートフォリオそれぞれのワード上に、バブルチャートで丸の大きさによって何人の人がそれを評価したかを載せると、どの価値に反応しているのかがわかりますね。そうすると国産ワインは「手ごろな価格」というところには極めて反応するのですが、そのようなあまりどうでもよい価値に反応してくれてもねぇということです。大事なところでは「おいしい」「品質がよい」「高価」「高級感がある」「幸せ」「酸味強すぎない」というところで反応していることがわかって、その商品のパフォーマンスが把握できるのです。
それを先に述べました価値の重要度の総合指標であるCS指数とその価値に対する評価との積を算出して、評価に重要度の重みづけをして積算していくことで、潜在的な価値のパフォーマンスを推定してみますと、国産ワインの強みは「高いこと」、その次は「安いこと」、この辺は非常に矛盾しております。まあお客さまは常に矛盾する生き物ですから、非常に難しいのですが、その次にくる「おいしくて」「手ごろ価格」「香りがよくて」「安心できて」「飲みやすくて」というような価値が国産ワインの強みとして出てきていますね。ですから、すごく両極端のものを作ればいいんじゃないかと思いますよ。国産の技術の粋を尽くした超高い一本1万円以上するようなものと、ディリーな600~700円くらいで十分おいしく、香りのも色も良いといったようなものを作るということが提案できるわけです。
あと価値の重要度と、その評価がわかれば皆さんおなじみの「CSポートフォリオ」というものが描けますね。横軸に重要度と、縦軸に評価をとると、重要度が高いもので評価が低いものというのは致命的なわけですから、そうするとここから国産ワインは何を改良するべきかが提案できるわけでして、その考え方からすると一番価値が重要で評価が低いのは「香りがよい」というところです。まず香りをよくしなくはダメですよと。また「まろやか」「ボトルのデザイン」は、ぜんぜん評価されていないわけですから、重要なのにもかかわらず、これは何とかしなくてならないということが提案できるわけです。これを国産ワインの研究開発の人に見ていただいて、「こうゆう物を作りなさい、しかも価格的には両極端でね」というふうに、たったあれだけのアンケートでここまで分析、提案ができるわけです。
先ほどのものが定型自由文形式のアンケートのテキストマイニングです。広い意味でこれもテキストマイニングだと考えています。
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講師:林俊克氏(株式会社資生堂 研究開発本部 CS開発センター情報開発室)
※講師の所属・肩書きは取材当時のものです。
◎初出:2002年5月20日
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